日本への帰国
「久々の日本か。何も変わっていないな。」
芳子は鞄を手にし船を降りる。
降りたったのは神戸の港だ。
「ご主人様、日本は大陸と違い洋装の方が多いのですね。」
芳子に続いて降りてきたのは鈴花であった。彼女は日本は初めてだ。船を乗り降りする人々の姿を眺めている。日本人女性の姿はあるが中国人の女性と比べ洋装率は高い。
「日本は開国後に真っ先に西洋諸国からあらゆる文化を学んだからな。洋装もその1つだ。」
田中が説明する。
「日本は中国より進んでらっしゃるのですね。」
チャイナ服姿の鈴花が関心すると同時に落胆する。こんな姿で来るなら洋装の服を買っておくべきだったと。
「鈴花ちゃん、そんなに落ち込むことはありませんわ。日本には百貨店がございます。洋装の物は購入できますわ。」
敏麗が優しい言葉をかける。
「ところで鈴花ちゃん、君は着いて来ることはなかったんだぞ。」
「いっいえ、ご主人様。私一度日本に行って見たかったんです。」
鈴花が咄嗟に答える。
鈴花が同行を申し出たのは日本への興味関心だけではなかった。時を遡ること10日前。
芳子と敏麗が日本行きの日程が決まった頃だった。
「奥様、お呼びでしょうか?」
突然千鶴子に呼び出された。
「鈴花、お兄様があの女と日本に行くようね。どういう事なの?」
「どうと言われましても女学校の教師を探しに行くとか。敏麗さんの知人に会いに行くそうなのです。」
「2人きりで?」
「いえ、田中中佐もおります。」
「で日本にいる間はどこに泊まる予定なの?」
「田中中佐が軍の名前でホテルを予約して下さって。」
「ホテルですって?」
千鶴子は鈴花に詰め寄る。
「奥様?」
「貴女お兄様に同行しなさい!」
「はい?」
鈴花は千鶴子の言ってることが理解できずにいる。
「これ報酬と旅費よ。」
千鶴子から大金の入った封筒を渡される。
「大体お兄様もお兄様よ!!あんな女と日本に行くなんて。」
「奥様、それは仕事です。敏麗さんは悪い人ではないと思いますよ。」
「口答えしないで!!」
千鶴子は鈴花の両肩を掴む。
「痛い。やめてください!!奥様!!」
「使用人のくせに雇用主に歯向かう気なの?」
「分かりました。だからやめてください。」
千鶴子は鈴花から手を離す。
鈴花は千鶴子の指示で芳子達に同行することになったのだ。芳子と敏麗を見張るために。
「鈴花ちゃん大丈夫?」
鈴花に声をかけてきたのは敏麗だ。
「顔色悪いわよ。大丈夫?」
「はい、大丈夫です。少し船酔いしてしまったみたいで。」
鈴花は答える。鈴花には理解できなかった。なぜ千鶴子がここまで敏麗を目の敵にするのか。
ホテルに着くとボーイがそれぞれの部屋に案内してくれる。部屋はそれぞれ個室が割り当てられている。鈴花は自分の荷物を整理すると芳子の部屋へと向かう。その時
(敏麗さん?)
敏麗が芳子の部屋に入っていくのが見えた。




