新しい家族
特別篇最終回です。
東京の明治神宮の控え室。
千鶴子は白無垢を身に纏い赤い紅をひく。
「千鶴ちゃん」
羽織袴姿の芳子がやってくる。
「似合ってるよ。僕の花嫁。」
千鶴子は顔を赤く染める。
「千鶴ちゃん、左手出して。」
芳子は袴の裾から小さな箱を取り出す。中には指輪が入っていた。差し出された千鶴子の左手の薬指に填めようとする
「お兄様、待って下さい。」
千鶴子が突然待ったをかける。
「どうしたんだ?僕じゃ不満か?」
「違うんです。」
「綾ちゃんの事か?それならもう心配ないだろう。」
2人は綾の遺骨を引き取るために日本に戻りそのまま挙式することにした。
姿見の傍のテーブルには遺骨と遺影が置かれている。
「いえ、綾の事は感謝してます。」
「それなら問題ないだろう?」
「ただ」
「ただ?」
芳子は聞き返す。
「お兄様は本当に私なんかでいいのですか?お兄様は王族の一員、私はただの孤児。」
「千鶴ちゃんはそんなことを悩んでいたのか。」
「そんなこと?」
「僕は千鶴ちゃんでいいんじゃない。千鶴ちゃんがいいんだ。僕も君と一緒。家族と呼べる相手はいないんだ。」
芳子も実の両親を17才の時に亡くしている。実の父は養父に手紙と一緒に芳子を託した。手紙には玩具を献上するていう一文が書かれていた。
「それで散々な目にあったよ。僕と同じ思いをした千鶴ちゃんとならきっと分かり合える。僕が帰れる場所が千鶴ちゃん。君なんだよ。指輪は嵌めてもいいか?」
千鶴子ははいと答え首を縦に振る。芳子は千鶴子の左手の薬指に指輪を嵌める。
式は神社の境内で行われた。参列者は誰もおらず二人だけでの式になった。ただ式場の最前列の席に綾の遺影を置かせてもらった。
神主に祝詞をあげてもらい、盃を交わす。これで二人は夫婦となったのだ。
「川島」
振り向くと田中の姿があった。
「僕を連れ去りに来たんですか?」
「そんなわけあるか。上官としてお祝いに来たんだ。」
田中は芳子に一輪の白薔薇を渡す。
「どういう風の吹きまわしですか?」
「川島、お前の事諦めたわけじゃない。だけどお前は俺が男である以上俺を受け入れる事はない。だったら俺にできることは1つだけだ。千鶴子さん」
今度は千鶴子の方を向く。
「川島を宜しくお願いします。」
田中は千鶴子に頭を下げる。
芳子との挙式から2年後。
「お兄様覚えてます?私達が夫婦になった日のこと。」
千鶴子の自室には芳子と挙式した時の写真が飾られていた。白無垢で椅子に腰掛ける千鶴子の傍らに羽織袴姿の芳子が立っている。
千鶴子は写真に話しかけている。
「まさか私達の結婚を祝福してくれる人が2人もいるとは思わなかったわ。だけどお兄様は今私じゃなくてあの娘に心写りしてる。そうでしょ?」
その時
「奥様」
ノック音と共に鈴花の声がした。
「お客様をお連れ致しました。」
「入りなさい。」
鈴花は軍人を1人連れてきた。
「吉岡中将、お忙しい中お呼びたてして申し訳ありません。」
客は溥儀の側近吉岡であった。
「千鶴子ちゃん、こちらこそお招きありがとう。一度千鶴子ちゃんの部屋入ってみたかったんだよ。」
千鶴子に背後から抱き付く。
鈴花は黙って部屋を出ようとするが
「待ちなさい。」
吉岡は自分の財布からお札を取り出すと鈴花に渡す。
「君は何も見てない。分かったね。」
鈴花ははいとだけ答え部屋を出ていく。
「ところで千鶴子ちゃん、二人きりで相談したいことってなんだい?」
ベッドの上に腰掛け千鶴子を抱き寄せながら尋ねる。
「女を1人始末してほしいのです。あなたにとっても目の上のたんこぶのような女ですから悪い話ではないと思いますわ。」
次回からまた敏麗ちゃん女子校設立に奮闘します。




