千鶴子の記憶
千鶴子は目が覚めると見知らぬ家のベッドの上にいた。
「やっと目が覚めたか?」
軍人が2人千鶴子の目の前にいる。1人は千鶴子の無事を確認すると俺はこれでと言って出ていく。もう1人は千鶴子のベッドの隣にやってくる。千鶴子は起き上がり逃げようとする。
「千鶴子ちゃんだっけ。安心して、取って食べたりはしないから。そもそも僕は女だからね。」
将校は千鶴子の腕を掴むと自分の胸を触らせる。
「女って?!なんでそのような格好をしているのですか?」
「なんでって僕のこと知らない?」
「知らないです。」
「川島芳子。他には男装の麗人とか清朝の王女とか呼ばれてるな。」
「王女様なのに男の格好なんてしてるのですか?」
「王女様が男の格好しちゃいけないか?」
いけなくはないが目の前の現実に千鶴子は頭が追いつかなかったのだ。
「目が覚めたら見知らぬ家のベッドの上で目の前に将校がいてその人は日本人の女性で王女様だったってことですね。」
千鶴子は頭の中を整理する。
「そういうことだ、だが1つ訂正。僕は中国人。本名は愛新覚羅顯㺭。川島芳子は6才の時に養女になった先の家からもらった名前。」
千鶴子は何が何だか分からなくなっていった。
「じゃあ今度は君の話を聞こうか?」
「私のですか?」
「ああ、寝間着姿で外にいたがどうしてだ?」
(そうだ、自分は李家のお屋敷から逃げてきたのだわ。)
千鶴子は自分の記憶をたどっていく。無理矢理結婚を迫られ上海に連れて来られた。そして
「そうだ、綾!!綾が。」
「千鶴子ちゃん、綾って誰なんだ?」
「私の妹のような存在、いえ存在でした。」
千鶴子は奉公先の娘の綾のことを思い出す。末っ子で兄妹の中で唯一女の子だった綾。兄達は綾を仲間に入れようとはしなかった。
唯一優しくしてくれる千鶴子のことを「千鶴子姉ちゃん」と呼んで慕ってくれた。家族のいない千鶴子も綾のことを本当の妹のように思えた。
「だけどあの娘は私の目の前で殺されました。」
「誰に?」
「私を欲した男。李剛真。」
「何だって?」
芳子はその名前を聞いたことがあるようだ。
「私の雇用主でもある彼女の父親はそれを見て無言で立ち去ろうとした。別に女だからどうってことないと言って。許せます?」
「千鶴子ちゃん、君の雇用主だった人の名前って何だ?」
「片岡、片岡です。」
「仕事は何をしてる人だ?」
「小さな会社を経営していて上海に支社を作る予定と言ってました。」
(やっぱりか)
芳子は心当たりがあるようだった。
本日5月24日は芳子様のお誕生日です。
おめでとうございます。天国で千鶴子さんがお祝いして下さることを願ってます。




