家族のいない少女
千鶴子さんの過去入ります。
千鶴子さんは16才くらいですね。
昭和5年。
ここは長野のずっと山奥の村。
「うわーん うわーん。千鶴子姉ちゃん!!」
「どうしたの?綾。」
6才の少女綾が千鶴子の名前を呼んで泣いている。
「ほらほら」
セーラー服姿の千鶴子は麻の着物で涙を流す綾を抱き締める。
「ぐすん ぐすん」
綾は千鶴子の腕の中で涙を引っ込める。悲しい時寂しい時いつも千鶴子はこうして綾を優しく抱き締めてくれる。嫌なことも何もかも忘れてしまうのだ。
「さあ、何があったの?姉ちゃんに話してごらん。」
「あのね、良太お兄ちゃんが意地悪するの。」
千鶴子は隣の畳の部屋に目をやる。数人の面子をして遊んでるその中一番背格好のある年長の少年が良太だ。年は10才くらいだろうか。
「良太!!」
千鶴子は少年達に近づく。
「何だよ?千鶴子。」
「何だよじゃないでしょ。妹にまた酷いことして。女の子には優しくしてあげなきゃ駄目でしょ!!」
千鶴子が女学校から帰ってくる前
綾が日本人形の髪をとかしていた。
「さあ、菊ちゃん。今日も綺麗にしましょうね。」
しかし
「綾、ちょっとその人形貸せよ。」
「嫌よ、私が使ってるんだから。」
「ちょっとくらいいだろう。」
良太は人形を取り上げると庭に放り投げる。
「うわーん!!」
「泣くなよ。お前が悪いんだぞ。」
そこに千鶴子が帰って来たのだ。
「女の子苛めちゃ駄目っていつも言ってるでしょ!!」
「綾が俺に逆らうから悪いんだ!!お前こそ使用人の分際で生意気なんだよ。俺が父さんに言えばお前なんか追い出せるからな。」
良太は他の兄弟を連れて行ってしまう。
千鶴子はこの家の使用人である。幼い頃に両親を亡くし親戚中をたらい回しにされた。
小学校を卒業すると厄介者に思われた千鶴子は今の屋敷に奉公に出された。旦那様の好意で女学校には通わせてもらっている。これからは外国語が必要となると言われ英語と中国語が必須科目にある女学校に通っている。
「旦那様はいい人なのに。」
旦那様の子供は4人いる。長男の良太に年子の弟が2人、その下に綾だ。末っ子で女の子とあってか兄弟の輪からいつも仲間外れ。優しくしてくれる千鶴子になついている。
「千鶴子、帰ってきてたのかい?」
女中頭の園がやってくる。千鶴子の先輩である。
「はい、今戻りました。」
「だったら畑に行って野菜をもらってきておくれ。」
奉公先の屋敷は畑を所持している。
千鶴子は買籠とメモを渡される。
「私も行きたい!!」
綾が声をあげる。
「いいわよ、行きましょう。」
千鶴子は綾の手を引いて畑へと向かう。
畑に着くと農民から人参と大根を分けてもらう。今日の夕飯に使うのだ。
籠いっぱいに詰めると再び綾と共に手を繋いで帰ってく。
「あの娘だろう?あのセーラー服の。」
農民達が千鶴子の話をしている。
「そうだな、旦那様が外国語を女学校で勉強させてるって娘か?」
「ああ、色白で目も大きくて旦那様が気に入るのも無理はないな。」
「旦那様は自分の妾にでもするつもりか?」
「実は聞いた話だとな」
農民の1人が耳に入った情報を口にする。
「千鶴子!!」
千鶴子と綾が帰ると玄関で園が待っていた。
「千鶴子!!大変だよ。」
千鶴子に会いたいという人が旦那様の書斎で待っているそうだ。千鶴子は籠を園に預けると書斎へと向かう。
「失礼致します。」
書斎に入ると旦那様、それから中華服を着た男がいた。
「千鶴子、こちらは上海から来たお客様だよ。」




