敏麗の力
「彼女は昨年亡くなった私の娘です。」
春蓮は病気がちで入院生活が続き昨年この世を去ったという。友達もできず外で縄跳びをしたりかけっこをする子供達を窓から羨ましそうに眺めていたという。
「きっと娘も敏麗ちゃんに気づいてもらえて嬉しいのでしょう。敏麗ちゃん、娘と遊んであげてね。」
「はい。」
食事の席についても敏麗の様子は変わらない。
「春蓮ちゃんも食べたい?」
敏麗はお肉を女中に切ってもらうとフォークで人切れさすと誰もいない右隣に向ける。
「そう、いらないの?じゃあわたくしが食べてしまうわ。」
その様子を両親や大人達は気味悪がっていたが李夫妻は笑って見ている。
「敏麗ちゃんは優しいね。娘も喜んでいるよ。ありがとう。」
「ええ、だってわたくし達友達ですもの。」
次の瞬間敏麗のワンピースの裾が引っ張られる。
「どうなさったの?」
春蓮が敏麗の裾を引っ張ったのだ。
「遊びたいのね。分かったわよ。でも夕食の後よ。」
春蓮は頷く。
「敏麗ちゃんこっち」
敏麗が案内されたのは庭の大きな木であった。外はもう夜だ。
「ここに何かあるの?」
木の下に宝物が埋まっているのだろうか?
「上」
春蓮は木の上を指さしてる。
「上に何かあるの?」
「一緒に来て。」
春蓮はふわふわと木の上を登っていく。
敏麗もスカートをたぐり上げ木に登る。
「敏麗ちゃん」
春蓮が木の上から手を差し伸べてくれる。
しかし敏麗は差し伸べられた手を取ろうとしない。春蓮は幽霊だ。手を取ることができるのだろうか。
「敏麗ちゃん大丈夫。」
敏麗は春蓮に向けてゆっくりと手を伸ばす。
春蓮は敏麗の手を掴むと木の上まで引き上げてくれる。
2人は枝の太い部分に腰かける。
「見て」
二人は空を見上げる。
「素敵」
夜空は満点の星だ。星の大群が一直線に広がっている。
「見て、あれが天の川よ。」
春蓮が説明する。天の川は夜空に流れる星の川だと教えてくれる。
「あれが私の部屋。」
続いて春蓮はお屋敷の窓を指す。
「私いつもあの窓から1人で見てたの。病気でお外に出られなくて。」
一瞬春蓮の表情が暗くなる。
「でもやっと友達と見ることができた。」
すぐに笑顔を取り戻す春蓮。その時
「敏麗、敏麗」
「お嬢さん。」
敏麗を呼ぶ声がする。
「皆が呼んでるわ。わたくし行かなくちゃ。」
敏麗は木の下から降りようとする。しかし
「きゃあ!!」
足を踏み外して転落してしまう。自分も落っこちて死んでしまうのか、そう思って時
「お嬢さん、大丈夫か?」
中華服の男が敏麗を受け止めてくれる。
「おじさん。」
「良かったよ。無事で。」
周りには敏麗の両親や李夫妻もいる。
「おじさん、今のはわたくしが足を踏み外しただけで春蓮ちゃんのせいじゃないの。あの娘幽霊だけど怖くないわ。」
「分かっている。」
男は頷く。
「春蓮ちゃんからは邪気は感じない。君に感謝してるよ。」
「おじさんにも春蓮ちゃんが見えるの?」
「ああ、君の傍にいるよ。」
敏麗が振り返ると春蓮が笑顔で宙に浮いていた。
「ありがとう。敏麗ちゃん。」
春蓮は姿を消した。
「彼女は成仏したよ。きっと一緒に天の川を見てくれる友達がほしかったんだね。」
男は敏麗を降ろす。彼は霊能者で春蓮の姿は最初から見えていた。しかし害がなかったから何もしなかったという。
「お嬢さん、君はあの娘を成仏させたね、良かったら私と一緒に霊能力の勉強をしてみないか?」