芳子の苦悩
前半若干重いです。
「芳子様、その傷」
「君ならお見通しだろうこの傷の意味、それとも未来は見えても過去は見えないか?」
「分かります。」
敏麗は芳子の胸の傷に手を当てる。その手を掴む芳子。
「敏麗ちゃんには隠し事はできないな。これは17の時にできた傷さ。僕が敏麗ちゃんと同じ年の頃に。」
芳子が話を続ける。涙を流しながら。
「芳子様、無理して話さないで下さい。」
「いや、聞いてくれ。」
芳子は再び口を開く。
「僕が17の時のある晩養父が部屋にやって来た。布団の上で身体を押さえつけられて抵抗できなくてずっと堪えていた。助けを求められる人なんていなくてだから銃で。」
「死のうとした。」
敏麗の言葉に芳子が頷く。
「だけどそれも失敗した。僕は帰れる場所もなくより処もない。そんな世界で1人で生きていかなければならなんて女の僕には想像つかなかった。だから」
芳子は敏麗の手を降ろし立ち上がると机の引き出しから新聞を取り出す。随分と昔の日付で日本語で書かれている。
「清朝の王女 断髪」
新聞にはそう書かれていた。記事の隣には芳子の字で書かれた決意文と短髪の芳子の写真が載せられていた。
敏麗はさほど驚かなかった。これも鈴時代に得た情報だから。
「芳子様、今のご自身はお嫌いですか?」
敏麗が尋ねる。
「そうだな、もしもここが未来なら敏麗ちゃんの言うプリティーズとかみたいに女の姿のまま戦っていたかもしれないな。だけど僕は今の僕が好きだよ。女でいた時よりも。」
再びソファーに座り敏麗を抱き寄せる。
「僕は元々スカートみたいな女らしい装いは好きじゃなかったし、男装のが王朝復活のため動きやすい。軍の司令官にもなれる。それに男も寄せ付けない。」
芳子は自殺未遂の一件から男が嫌いになった。
「良かった。」
敏麗が芳子の手を握る。
「わたくしは芳子様の男装好きです。男装だけじゃありません。自分を曲げずに真っ直ぐに前だけ向いて歩いていかれる姿も。それにわたくしと一緒ですわ。」
「一緒って?!」
芳子の脳裏には良からぬ想像が過った。もしかしたら彼女も自分と同じ経験をしたのか。しかし
「わたくしも男が嫌いです。」
「なんだ、そういうことか。」
芳子は安堵する。敏麗は可愛くないからと続けようとしたがやめた。芳子の苦い経験と比較すると自分の理由なんて他愛もないものなのだから。
「ちなみにそれは可愛くないからか?」
芳子の顔には笑顔が見える。
「よくお分かりで。」
「君のこと少しは見通せるようになったつもりだ。」
「うふふ」
敏麗にも笑顔が見える。その時ドアを叩く音がした。鈴花がお茶を持ってきたのだろう。
「芳子様、まずは服着て下さい!!」
芳子はブラウスのボタンをはめ、軍服の上着を着る。芳子が服を着終わるとどうぞと返す。
しかし扉を開けて入って来たのは鈴花ではなく千鶴子であった。カートにお茶とケーキを持って来た。
「あら、敏麗さんもいらしたのね。鈴花ちゃんがお茶入れてたの。ちょうどケーキ買ってきたからお兄様と食べようと思ったのに。敏麗さんにあげるわ。」
「ありがとうございます。」
千鶴子はカートからケーキとお茶をテーブルに移そうとする。
「敏麗さん」
一瞬千鶴子が無表情になる。
「ケーキは食べてもお兄様は食べないでね。」
「千鶴ちゃん、そんなんじゃないから。」
「お兄様、冗談よ。どうぞごゆっくり。」
千鶴子はカートを持って部屋を出て扉を閉める。外には鈴花が立っていた。
「お兄様何か変だわ。」
「奥様、きっと仕事の話では。」
「お兄様ブラウスの第一ボタンが開いていてタイもしていなかった。あの敏麗とかいう女要注意人物ね。あの女から目を離さないで。」
「はい、奥様。」
千鶴子は長い廊下を歩き去っていく。
プリティーズの元ネタはご察しの方もいらっしゃいますが作者の好きなアニメです。




