霊感少女
敏麗は天津で中国人の裕福な家の長女として産まれた。父は骨董品や絵画の売買をしていて貴族や富豪といった顧客もいる。彼女が他の人とは違うのは幼い頃から人には見えない者が見えた。誰もいないところで1人で話したり、手を振ったり。
「お嬢様、誰に手を振ってらっしゃるのですか?」
日本舞踊のお稽古の帰り、敏麗は馬車の窓か手を振っていた。
疑問に思って付き添いの女中が尋ねた。すると
「お姉ちゃん。」
「お姉ちゃんはどこにいらっしゃるのですか?」
「どこっているじゃない、柳の木」
女中も窓から顔を出し遠ざかっていく柳の木に目をやる。しかしそこには誰もいない。
その日の夜夕食の時に父が敏麗に尋ねる。
「敏麗、今日の帰りに馬車からお姉ちゃんを見たんだって?」
父は帰りの馬車の出来事を女中から聞いていた。
「はい、お父様。」
敏麗は答える。
「どんなお姉ちゃんだったんだ?」
「そうね」
敏麗が説明しようとした時
「絵描けるか?」
夕食が終わると父はスケッチブックとクレヨンを持ってきてくれる。
敏麗は馬車の窓から見た「お姉ちゃん」絵を描く。
「はい、お父様」
スケッチブックには柳の木の下に黒い長い髪を垂らす白いドレスの女性が気味悪く描かれていた。
「お姉ちゃんは何か言っていたか?」
「何か言ってかは分からないけど手をこんな風に動かしていたわ、」
敏麗は片手の甲を向け指を下向きにして動かす仕草をする。
「おいでおいでしているみたいだったわ。」
次の日から日舞の稽古に向かう時は違う道を行くようになった。
敏麗が10才の時父の顧客李家の屋敷に家族で食事会に呼ばれた。中国の貴族で彼は劇場やホテルを所持している。今夜の食事会には京劇俳優やホテルの支配人等も招待されている。敏麗もチャイナ服を着て侍女に手を引かれ屋敷を訪れた。
ダイニングへと案内された時
「お嬢様?!」
敏麗が突然壁に向かって手を振る。
「ごきげんよう」
誰もいないところにかけていきお辞儀をする。
「わたくし敏麗。貴女は?」
1人で会話を始めたのだ。
「敏麗辞めなさい。」
父が止めようとする。
「どうして?」
「また絵のお姉ちゃんと話してるのか?」
父は以前絵に描いた柳の木の下の気味悪い女性の事を思い出した。
「違うわ、わたくしが話してたのは春蓮ちゃんよ。」
「春蓮?!」
李が尋ねる。
「お嬢さん、今春蓮と?」
「はい、春蓮ちゃんとお話しているのです。」
「春蓮ちゃんというのはこの娘かな?」
李はポケットの中から家族写真を取り出す。彼が妻とそれから幼い少女が写っていた。彼女は髪を2つに結びチャイナ服を着ている。今春敏麗が着ているような。
敏麗は写真の中の少女を見ると再び何もない壁の方を見る。
「ええ、髪型も服装も同じ。」