関東軍本部
「失礼致します。」
芳子は軍の本部にある指令室を訪れていた。部屋には軍服姿の男が1人。芳子を待っていた。
「川島か、まあ座れ。」
男は芳子に席を勧める。
「川島視察ご苦労だった。それでどうだ?」
「田中さん、あの屋敷は駄目ですよ。」
田中隆吉中佐、芳子の上官である。
「欠陥住宅か?」
「いえ、悪霊の溜まり場ですよ。僕も危うく取り殺されるところでしてね。」
「はははっ、それは面白い冗談だな。」
田中は信じてないようだ。といっても早々はいそうですかと言って信じられる話ではない。
「いえ、本当ですわ。」
部屋のドアが開く。純白なチャイナドレスの敏麗がいた。
「誰だね?君は。」
田中が尋ねる。
「音敏麗と申します。霊能力者をしております。お噂は芳子様から聞いておりますわ。田中隆吉中佐。」
敏麗は田中に向かって笑いかける。
「なぜ俺の名前を知っている?」
田中は自分の名前を言い当てられ右往左往している。
「言いましたよ。彼女は霊能者だと。」
「どうせお前が教えたんだろう。」
田中は気を取り直し答える。一向に信じてくれそうもない。
芳子は敏麗に目配せする。敏麗は頷き口を開く。
「田中中佐、いけませんね。奥様がいるのに芳子様に関係を迫るなんて。由々しき事ですわ。」
「川島、お前話したのか?」
「その話は続きがありますわ。」
焦る田中を無視して敏麗は続ける。
「その事が奥様に知られ家庭では肩身の狭い思いされているそうですね。奥様はご自身の若い部下と浮気中とか。」
敏麗は田中の秘密を話し出す。芳子にすら話していないのだ。芳子は隣でそうなのかと言うように聞いていた。
「それから」
「分かった!!」
田中は大声で敏麗を制止する。
「信じる。信じるからそれ以上言うな。」
敏麗は口を閉じる。
「そもそも君は霊能力者だろう、徐霊しなかったのか?」
「わたくしの師ですら試みたけど失敗に終わった。あの場所はそういうところですわ。」
あの屋敷を皇帝夫妻の新居にするのは不可能なのだ。
「田中さん、皇帝溥儀と皇后婉容は紫禁城から直接満州の地へ案内するのはいかがでしょうか?」
(満州国建国)
芳子の提案を聞いて敏麗は心の中で呟いた。
芳子、いや日本軍がやろうとしていることだ。
清王朝の復活、アジア民族の共存。聞こえのいいことを言っているが日本軍がアジア民族を虐げるために作った国なのだ。
「芳子様、少し宜しいでしょうか?」
敏麗は芳子の手を引いて部屋を出ようとする。
「敏麗ちゃん?!」
芳子は田中に一礼して敏麗に手を引かれながら出ていく。
敏麗はそのまま芳子を誰もいない廊下の突き当たりへと連れていく。
「敏麗ちゃん、どうしたんだ?」
「芳子様、皇帝皇后夫妻を満州に移す計画今すぐに手をお引き下さい。」




