日本軍への挑戦
誕生会では参加者にケーキと紅茶が出される。
「さあ、お召し上がり下さい。」
鈴花と婉容がお給仕役を務める。
「ケーキなんて久しぶりたわ。」
加代子がつぶやく。
「鈴花さん、ケーキはどちらで購入されたのですか?」
加代子が尋ねる。戦争が始まる前は百貨店があり洋菓子も売っていた。しかし昨年の敵性語排除令により百貨店は閉店した。
「私の友人のパティシエにお願いしたのです。」
婉容が説明する。材料もパリから持ち込んだ物だという。
「本場のお菓子ね。」
加代子が納得する。
「皆様、バースデーケーキが用意されましたよ。」
婉容の友人であるフランス人パティシエのジャンピエールがバースデーケーキを運んでくる。ケーキの真ん中には四角いチョコレートがある。「Bonne anniversarie a Yurika」と書かれている。フランス語で「ゆりかさん、お誕生日おめでとう。」という意味だ。
「ゆりかさんって誰?」
加代子が級友に訪ねられる。
「今ご紹介致しますわ。」
婉容が手を叩くと鈴花が蓄音機でクラシックをかける。それを合図に燕尾服姿の芳子が白いチュチュのようなドレスを着た敏麗の手を取って現れる。正確には芳子の体を借りたゆりかだ。
「本日16才の誕生日を迎える神野ゆりかさんです。」
芳子、いやゆりかが1歩前に出てお辞儀をする。
「ねえ、あの方。」
招待客の少女の1人が鞄から少女雑誌を取り出し頁を開く。
「本当だわ。」
それは以前少女雑誌に乗った芳子のスナップ写真だ。
「芳子様の誕生日なのかしら?」
「でも婉容様はゆりかさんと。」
事情を知っている加代子を覗き少女達はざわざわしはじめる。
「皆様」
今度は敏麗が手を叩き少女達を自分に注目させる。
「わたくしは満州国皇后敏麗と申します。」
「敏麗?」
「満州国って日本が作った。」
「確か霊感がある巫女じゃなかったかしら?」
再び少女達がざわつきはじめる。
「お静かに!!」
再び電車を叩く敏麗。
「この屋敷は今日本軍が所持してますが元々はとある侯爵家のお屋敷でした。日本軍は軍の食糧庫にするためにこの屋敷の一家を撃ち殺しました。その日は長女の神野ゆりかさんの16才の誕生日でした。本来なら彼女は友達や家族にお祝いされダンス講師と組んでダンスを披露する予定でした。」
淡々と事の経由を敏麗は少女達に説明する。
「芳子様の中には今彼女の霊がいます。どうか供養のために彼女の誕生日は一緒に祝って下さいますか?」
敏麗は膝を折りお辞儀をする。
「お願いします。」
続いて芳子の中にいるゆりかも。
「踊って下さい!!」
加代子が声をあげる。
「私も敏麗さんとのダンス見たいです。」
鈴花も続く。会場には拍手が起きる。
婉容が蓄音機でワルツをかけるとゆりかと敏麗は互いに向き合いお辞儀をして手を握り合うとステップを踏み出す。ゆりかはずっと敏麗と目を合わせ踊っている。
ダンスが終わり二人がお辞儀をすると
「敏麗、大変だ!!」
屋敷の外で待機していた田中がやってくる。
「日本軍のやつらが屋敷に来る!!」
敏麗はそれを聞いてにやりと笑みを浮かべる。
「田中中佐、ありがとう。こちらに歓迎致しましょう。」




