体育祭から始まる。
『ラジオ大賞4』参加作品です。
……やらかした。
『ケチャップ付いてる』
なんて、人前で指摘するなんてホント最低だ。しかも、気になる相手に。
後で友人にも、「お前、アレはないわー」とダメ出しされた。
彼女と初めて会ったのは……というか、俺が彼女を気になり出したのは、高校2年の文化祭の時。
彼女は茶道部で着物姿でお茶を立てていた。凛とした、淑やかそうなその姿に。
あ。いいな。
そう思った。……最初はただそれだけ。ふとそう思って、次の瞬間には忘れていく程度のものだった。……のだが。
「うひゃあ!」
彼女は茶碗をひっくり返していた。
その淑やかな見た目と裏腹に、……かなり、やらかし系の女の子のようだった。
それから何となく、本当に何となくだけれど彼女に目がいくようになっていた。廊下ですれ違ったり全員集合の時であったり、とにかく彼女をいつも探している自分に気付く。
そして気付いたのだが、自分と彼女には接点がまるでなかった。結局3年間、クラスも委員会も何一つ一緒にはならなかったのだ。
そしてもうすぐ体育祭、という時に一つの可能性に気付く。
うちの高校の、体育祭の3年生のみ全員参加のフォークダンス。あれならもしかして、彼女と踊る事が出来るのでは?
そしてその時にちょっと声を掛けてみよう。それからなら体育祭の後も話掛けてもおかしくないだろう。
うん。そうだ。それがいい。
それからは体育祭を心待ちにしていた。
……それなのに。
フォークダンスが始まる時から天気が怪しいな、とは思っていたのだ。
そして、彼女の手を取る寸前に降り出した雨。
慌てて雨宿りしたテントで真横に来た彼女。こんなに間近で居られるなんて滅多にない! とドキドキしつつ彼女をまじまじと見る。……ん?
良く見ると、彼女のクラスTシャツには赤いシミが2つ……。そしてふわりと香るケチャップの香り。……ああ、成程。おそらくまた彼女はやらかしたのだろう。
そして、冒頭の台詞となる。
彼女はたっぷり間を空けた後、乾いた笑顔で「ありがとう」と答えた。
一応、そのシミを隠す為にと自分のハチマキを渡したのだが、友人に「それもキモい」と言われてしまった。
ああ、……痛恨のミス。
次、彼女に声をかけられるだろうか。あの後、ケチャップは上手く隠せた? とか? ……うわ、最低だ。
悩みながらふと前を見ると、彼女がちょうど1人で歩いているところだった。
思わず彼女に駆け寄り、声を掛ける。
……彼女はどんな顔をして、どんな返事をくれるだろうか?
彼も彼女も、どちらもやらかし系でした。
『フォークダンスと体育祭』が彼女側のお話になります。