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第九十八話 不幸中の幸い (アイフォード視点)

 それから俺は、屋敷をマーシェルが休めるように徹底的に整えた。

 人当たりのよいネリアをマーシェルの側付きにし、マーシェルが話せる人間として、メイリをマーシェルにつけた。

 そして、負担がかからないように俺自身は、マーシェルにほとんど接することのないようにした。


 マーシェルに会いたくなる気持ちを必死に抑えつけながら、俺は一刻も早く団長として就任できるように動いていた。

 いざという時、クリスが手を出してきた時などに、守れるだけの力を手にするために。

 覚悟を決めてから、そう俺は様々な手を打ってきた。


 全ては、マーシェルが自分を愛せるよう……自分を犠牲にすることがなくなるように。


「本当に立派なことだよ。……考えだけは」


 今までのことをそう振り返った俺の口元に浮かんでいたのは、自嘲の笑みだった。

 俺はそう必死にあがいてきた。

 けれど、実際問題その行動に結果が伴っているとは、俺はかけらたりとも思っていなかった。


 なぜなら、何一つ俺はマーシェルの自己犠牲を止めることができなかったのだから。


「……あの時も俺は」


 そう考える俺の頭の中、蘇るのはウルガとの一件だった。

 あの時、一切の躊躇もなく自分を犠牲にしようとしたマーシェルを俺は止めることができなかった。

 いや、それどころか侍女になっていた時は、気づいてさえいなかった。

 そしてあの時……マーシェルが自分を差し出そうとしたあの瞬間のことは、俺の記憶の中に刻まれていた。


「っ!」


 その時のことを思い出すだけで身が凍るような感覚を俺は感じる。

 そしてその感覚に、俺はあの時思いを抑えることができなかった。


 マーシェルを抱きしめたあの時の感覚。

 それは未だ俺の中に残っている。

 あの時、マーシェルの柔らかい身体の感触を感じながら、俺の胸にあったのは自分に対する殺意だった。


「あの時、マーシェルを歪ませたあの瞬間から、俺は何一つ変わってないな」


 強く握りしめた拳を見つめながら、俺は小さく呟く。

 本当に俺はまるで変わっていなくて。

 だからこそ、俺は思わずにはいられなかった。


「……クリスにだけは、マーシェルが会うようなことがなくてよかった」


 そうなれば、今度こそ──俺はマーシェルをこの屋敷にとどめるために手段を選ばずに行動しなくてはならなくなっていただろう、と。

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