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第九十七話 決めた覚悟 (アイフォード視点)

「……っ!」


 忘れることなど絶対にできない俺の罪の記憶。

 それを思い出した俺は、知らず知らずのうちに唇を噛み締めていた。


 それから、俺は必死でマーシェルの姿を探した。

 けれど、それ以降俺はマーシェルと会うことはできなかった。

 そのうちに俺は騎士となった。

 それからの生活は、かつて俺が望んでいた平穏そのものの生活で。


 ……けれど、そのまま望んでいた平穏な生活を送る気など俺にはありはしなかった。


 それから俺は必死に騎士としての立場を上げていった。

 全ては、いつかマーシェルという恩人に恩を返すため。

 それが何時になるのかも分からない。

 ただ、いつか返すために俺はあらゆる手を使って権限を手にし……メイリから連絡があったのはその時だった。

 思い出す。

 その連絡がきた当初俺は、ただ単純に恩を今度こそ返せると思っていた。

 あんな言葉でマーシェルを傷つけた自分には、もうマーシェルに思いを告げる資格なんてないだろう。

 それでも、いつかマーシェルに謝って、恩を返すくらいは。


 ──そんな甘い考えは、呆然と佇むマーシェルを見るまでだった。


 俺が自分が一体マーシェルになにをしたのか、本当に理解したのはその時だった。

 前からマーシェルが自己犠牲に走りがちな人間であることは知っていた。

 しかし、目の前で佇むマーシェルは本当に自己犠牲でしか自分の価値を確認できなくなっていて。


 ……俺は罪の意識で縛ることしか、そんなマーシェルを守る方法が分からなかった。


 それから、俺は何とかマーシェルを自己犠牲以外で屋敷に引き留められないか、様々な方法を考えた。

 けれど、その最初で俺は理解することになった。

 そんな方法を行うには、もうあまりにも時間が経ちすぎていたと。

 もう、俺にはマーシェルと友情とはいえ、絆を結び直すことはできないと。


 ……屋敷にきた初日、俺の目の前で頭を下げたマーシェルの姿によって、俺はそのことを理解することになった。


 ここで、過去のことを謝ってもなんの意味もない。

 むしろ、自己嫌悪に囚われたマーシェルはこの屋敷から去ってしまう可能性さえあった。

 そう理解して、俺は自分を殺したい自己嫌悪を覚えながら決めた。

 これから自分はどれだけマーシェルに憎まれても、嫌われてもいい。

 その上で、マーシェルを罪悪感で縛りつけることにしようと。

 その時から俺はマーシェルに謝罪することも、募った思いを打ち明けるのも全てをあきらめた。


 ──その上で俺は、マーシェルがもう傷つけられることのないよう、全力で守ることを決めた。

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