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第九十二話 犯したミス (アイフォード視点)

「いくら能力があろうが、純血たり得ない貴様が当主になれると思うなよ」


 それは今でも俺の頭に鮮明に残っている言葉だった。

 それは、刺客と思わしき人間に襲われ、血を流して傷だらけになりながら助けを求めた俺に、父が言った言葉だった。


 ……俺は父にとって邪魔者でしかないと、そう突きつけられたのはその瞬間だった。


 俺がはっきりと、自分の立場がどういうものかを理解したのはその言葉を聞いた時だった。

 自分という存在が崩れ去るような絶望とともに、その時の記憶は俺の中に刻まれていた。


 しかし、そんな状況にあっても俺は死ぬことはなかった。

 というのも、コルクスが俺の後ろにいてくれたが故に。

 当主を常に立てる形を崩さないとはいえ、その時からすでにコルクスは当主に匹敵する権限を有していた。

 そんなコルクスが俺を守ってくれていたが故に、俺は何とかその状況で生き抜くことができていた。

 そして、当時の俺にはもう一人味方がいた。


 それこそ、俺と同じく侯爵家の中で虐げられる存在だったマーシェルだった。

 あの時のことは今でも覚えている。

 俺を押し上げ、甘い汁を吸おうとする人間はいた。

 しかし、本当に心を許して語りあえる存在は、マーシェル以外存在しなかった。


 その当時のマーシェルには、今のような権限はなかった。

 幸運にも、侯爵家にいることを許されただけの令嬢。

 どれだけマーシェルが働き、一部の心ある人間に認められても、多くの人間からはそんな評価を下されていたマーシェル。


 そんなマーシェルは同じくあざけられる立場にあった俺にとって、唯一の心を癒す存在だった。

 あの時、マーシェルは自身もつらいはずなのに、それでも俺に寄り添ってくれた。

 クリスの刺客について教えてくれたことも一度や二度ではない。


 今でもあの時のことは、俺の中に鮮明に残っている。

 マーシェルと過ごせた日々は、あの地獄のような侯爵家の中において数少ない幸せな日々だった。


 ……だからだろうか、俺がやってはならないはずのことをしてしまったのは。


 今でも俺は思い出す。

 あの時、俺が強ければこんな事態にはなっていなかったのだろうかと。


 そんな致命的なミスを俺が犯したのは、ある日のことだった。

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