第九十一話 懺悔の記憶 (アイフォード視点)
「お前、これ……!」
その言葉に、俺は衝撃を隠すことはできなかった。
確かに、アルバスは決して王宮での立場は低くない。
大臣ではないが、国王陛下と直接やり取りできる立場にいる。
けれど、無期限延期を撤回できるほどの立場ではないはずだった。
それ故に衝撃を隠せない俺に、アルバスは肩をすくめて告げた。
「まあ、これは俺というかマーシェル様のおかげだがな」
「……どういうことだ?」
「メイリが俺に、これを持ってきたんだよ」
そういって、アルバスが俺へと差し出したのは、何かの書類の写しだった。
俺はそれを無言で受け取り、それへと目を通す。
「っ!」
そして、その中に記された中身に思わず絶句することとなった。
「これは……!」
「そうだ。ウルガが横領に関わっていたことを証明する書類だ。それによって、お前が強引に権限を使うだけの理由があったとしてこの件は処理した」
呆然とアルバスの言葉を聞きながら、俺は理解していく。
あの時、一体マーシェルがなにを望んでいたのかを。
あんな虐げられてもなお、ウルガの使用人という立場で尽くしていたのだと。
「……くそ」
そのことを理解した瞬間、俺の口からそんな言葉が漏れていた。
「また、こんなこと……!」
そう呟きながら、俺が怒りを抱いていたのはマーシェルではなかった。
俺が怒りを抱いているのは、そんな風にマーシェルが動かずにはいられない原因を作った人間。
俺自身への怒りだった。
「……なにが、犠牲は許さないだよ」
自分が言った言葉が俺の頭によぎる。
その言葉が何より俺のことを追いつめるものとなっていた。
自分自身がマーシェルを犠牲にしていた、その事実に俺はただ唇を噛み締めることしかできない。
「悔いているところ悪いが、そんな時間があるなら行動で示せ」
「……っ!」
アルバスへと目を向けると、その顔は真剣そのものだった。
ぴりぴりとさえ感じる空気の中、アルバスは告げる。
「俺はコルクス様と、マーシェル様のためにお前に協力したんだ。だから」
そこで、殺気さえ滲ませアルバスは告げる。
「──次に前のようなことをすれば、親友でも許さねえからな」
その言葉を最後に、アルバスは俺に背を向けて歩き出す。
遠ざかっていく背中を見ながら、俺は小さく吐き捨てた。
「……その時は自分から首を差し出すよ」
そういいながら、俺の頭の中にある記憶が蘇ってくる。
それはマーシェルが自身の罪だと思っている出来事。
──マーシェルをこうして歪ませた、俺にとって忘れることのできない懺悔の記憶だった。




