第八十八話 陰の功労者 (アイフォード視点)
アルバスがこの屋敷にきたのはクリスがくる十数分前だった。
突然裏口から姿を現したアルバスには酷く驚くことになった。
だが、その時きてくれていなかったら俺は慌てふためきながらクリスに対処することになっていただろう。
アルバスが事前にクリスの来訪について教えてくれたのは非常に助かることだった。
そしてまた、公爵家の情報についてもあまりにも貴重な情報だった。
俺も決してクリスがくる時のことを想定していない訳ではなかった。
もちろんその時のプランも用意してはいたが、完璧とは言い難かった。
本来なら俺の場所にこないだろうという考えと、ウルガの乱入という状況が重なり、満足できる出来栄えとは決して言えないもの。
本当にあのウルガという女は厄介なことしかしない、そう思う一方で俺は心からアルバスに感謝していた。
「……お前がそんな低姿勢だと気持ち悪いな」
しかし、そんな俺を本気で気持ち悪そうに見ながら、アルバスはそう告げる。
その態度に一瞬いらっとしつつも俺は、すぐに苦笑した。
「今回は本当に助かったからな。ウルガの時に上に無茶ぶりを聞かせたから、かなりきつくてな」
「ああ、よく知ってるよ。存分に恩に感じろ……といいたいが、今回は俺の手柄でもないんだよ」
「……どういうことだ?」
その言葉に俺は思わずアルバスの顔を見返す。
そんな俺に苦笑しながら、アルバスは口を開いた。
「この偽造用の資料を用意を指示したのも、クリスがここにくると伝えて欲しいとお願いしてきたのも、全部コルクス様なんだよ」
「コルクスが?」
「ああ。資料に関しては公爵家との交渉もほとんどやってくれたようなものだし、今までクリスを押さえてくれてたのもあの方だ」
そこまで言って、アルバスは屋敷の玄関の方へと目をやる。
おそらくもう、クリスはさっただろう玄関へと。
「それに、俺がクリスよりも先にお前にこのことを知らせることができたのも、あの方が最後までクリスを妨害してからきてくれたおかげだ」
「……そうか、そこまでしてくれたのか」
そう言って、俺は王宮の方向へと目を向ける。
もうコルクスはいないとわかりながら。
「最後にあの人からの伝言だ」
「……伝言?」
想像もできないその言葉に目を向けた俺にうなずき、アルバスは口を開く。
「アイフォード様。以前も役に立たなかったばかりか、マーシェル様に至っては、支えることもできておらず本当に申し訳ありません。だとよ」
「……変わらないな、あの人は」
その伝言に、俺は思わずそう苦笑を浮かべていた。
相変わらずの不器用さだと、そう思いながら。
「ここまでしてくれて、役に立っていない訳がないのにな」
「相変わらず鈍い方だろう?」
そう苦笑するアルバスに、俺は頷き返し告げた。
「本当に変わらないな。……あの屑親父から、俺を守ってくれていた時からずっと」




