第七話 後悔と変化の始まり
これまでの私の行動理由は全て恩返しの為だった。
いつか、クリスが私を見てくれたら、そんな淡い希望が打ち砕かれてからも、私はそれだけを胸にやってきた。
……そのためだけに全てを投げ捨て、私は必死にがんばってきた。
なのに、その行動がクリスが私を疎む原因となっていたとしたら。
そう考えて、私は茫然と呟く。
「だったら、私のやってきたことは……」
そこで、私は小さく笑った。
「……ううん。今更、何を被害者ぶっているんだろう? ──私は加害者なのに」
そう呟く私の脳裏に浮かぶのは、彼に自分がした仕打ちだった。
本来、彼が継ぐはずだった侯爵位を私はクリスの為に奪い取った。
……本当は彼の方が相応しいと知りながら。
「そっか、これも当然の報いなのね」
そう呟く私の胸に、もうクリスに罵られた衝撃はなかった。
ただあるのは、全てがどうでもいいという虚無感。
あの愛人が心変わりしないかぎり、侯爵家には困難が待っているだろう。
そう理解しつつ、もう私が何かを感じることはなかった。
ただ、私を信じてくれた使用人達だけは、なんとか逃げてほしい。
「……彼等なら、危険だと分かったらすぐ逃げてくれるわよね」
そんなことを考えながら、私は歩き出す。
この先なんて、私には分からない。
もう頼れる先なんてない私に待っているのは、死ぬことかもしれない。
だが、もうそんなことさえどうだってよかった。
おぼつかない足で、私は侯爵家の別邸から離れようとする。
「ここにいたのか」
……あり得ない声がしたのは、その時だった。
茫然と、私は声のした方向、後ろへと振り返る。
そして、かすれた声で私はその人へと問いかけた。
「……どう、して?」
「はっ、そんなこと決まっているだろうが」
その私の言葉に、酷薄な笑みを浮かべその人は告げる。
「お前の能力が必要だから、声をかけにきた。それだけだ」
それは、一切の感情のこもらない声。
けれど、そのことに私は安堵するのを感じていた。
そんな私に、その人はさらに続ける。
「お前が俺にしたこと、それを忘れたとは言わせないからな。お前は、俺に償わなければならない。だから……」
そこで、一瞬その人の言葉が途絶える。
まるで、感情があふれ出したように。
けれど、その沈黙は一瞬だった。
その人は、その目に怒りを宿しながら告げる。
「──勝手に死ぬのは、許さない」
その言葉を聞きながら、私は思う。
本当に、世界は不思議だと。
先ほどまで私は、今日は世界一最悪な日だと思っていた。
その絶望を胸に死んでいくんだと。
それが、この人を裏切った代償だと。
だから、その直後にずっと私が望んでいた状況が起きるなんて考えてもいなかった。
……いつか、この人に償いたいと私はずっと願っていたのだから。
だから、その場で頭を下げることに、私はなんの躊躇もなかった。
「分かりました。今から、私は貴方のものです」
──このときこそ、私の人生が変わる瞬間だと知りもせずに。
夕方の次回から、クリス視点となる予定です。
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