第七十八話 葛藤
私はずっと、自分はアイフォードに恨まれているものだとして生きてきた。
だから、その償いをするために私はこの場所に来たのだ。
アイフォードは私に何か利用価値を感じているはずだと。
だから、ここに置いているはずだと。
……けれど、もしそうではなかったら。
私をここに置いている理由が、情けだとしたら。
そこまで考えて、私は呆然と呟く。
「私がここにいる意味はあるの……?」
それはアイフォードに抱きしめられたあの日から、ずっと私の胸にあった思いだった。
あの時に、私は理解してしまっていた。
アイフォードはあの時、私を本気で心配していたと。
そして私は知っているのだ。
……アイフォードは人に裏切られてもなお、その人の心配ができるほどに優しい人間だと。
そこまで考え、私は小さく呟く。
「もし、本当は行く宛のない私を心配して、この屋敷に置いてくれているだけだとしたら?」
そう言いながら、私は無意識のうちに自分の拳を強く握っていた。
もしかしたら、アイフォードは私に怒りを抱きながらも、心配してくれていた可能性はある。
けれど、そうだとしても私がアイフォードにしたことが覆る訳ではないのだ。
だとしたら。
「……私がこの場所にいることは許されないわ」
そう呟く私の脳裏に、ふとあるアイフォードの姿が思い出される。
それは、号泣するアイフォードの姿。
それは私でさえ、一回しか見たことのない姿で。
「……私はあの時、アイフォードを裏切った」
そう呟きながら、私は切実にメイリに相談したくてたまらなかった。
本当に私がここにいていいのか、今すぐ出て行くべきなのではないか。
そんな思いを、まだ戻らないメイリに打ち明けたくてたまらなかった。
どうしようもない葛藤に私は自分の身体を抱きしめることしかできない。
「とにかく、アイフォードの気持ちを確かめないと」
それから私がそう決断を固めたのは、少ししてのことだった。
意を決した私は、アイフォードの部屋へと向かって歩き出す。
しかし、その威勢が保てたのは、少しの間だけだった。
その道中、アイフォードの部屋の近くまできた私は、そこで立ち止まる。
部屋の前で立ち止まり、少しの間思案して私は振り返る。
「……今日は、やめておきましょうか」
早く確かめないといけない、そう叫ぶ胸の内を無視し、私はその場から立ち去ろうと自室へと戻ろうとする。
──ぱたん、と使用人用の裏口が開く音が響いたのは、そんな時だった。




