表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/123

第七十七話 気づき

「まあ、問題はないか」


 そう言ってアイフォードが顔を上げたのは、数分してからのことだった。

 赤らんだ顔を隠す様に少し顔を背ける私に、アイフォードは淡々と告げる。


「俺が来るのがいやなら、もう少し身体を労れ。俺がわざわざお前を引き入れた意味をなくす気か?」


「……申し訳ありません」


 その正論に、私は素直に頭を下げることしかできない。


「お前が働く時はまだ先だとずっと言ってるだろうが。分かったら、無茶は控えろ」


 内心、アイフォードも無茶する性格のくせに、なんて言葉が喉元まであがってくる。

 しかし、それをぐっと抑えて私は我慢しようとして。


 ……そんな理性が保てていたのは、アイフォードが私の処理していた書類を持ち上げようとする姿を見るまでだった。


「とりあえず、お前はきちんと休むことから……」


「ま、待って!」


「……お前、人の話聞く気あるのか?」


 青筋を額に浮かべ、どすの利いた声でアイフォードが私に問いかけてくる。

 それに地雷を踏んだことを悟りながらも、私は必死に告げる。


「あ、後もう少しで終わるの。それだけ終わらせて……」


「前、その言葉を信じたらお前は何時間やり続けていた?」


 だらだらと汗を流す私は、一度目を泳がせた後、何とか口を開く。


「……ちょうど私が仕事している時にアイフォードが来ただけで、私は一時間くらいしかやってないわよ」


「子供みたいな言い訳してんじゃねえよ」


 さらに青筋を立てるアイフォードに、さすがに説得が不可能だと理解した私は、渋々書類から手を離す。

 そんな私に深々とため息をもらし、アイフォードは口を開いた。


「いいか? お前は俺の駒だ。常に指し手の俺が動かせる状態であれ。毎回言ってるよな?」


「……はい」


「肝心な時に使えない駒じゃ意味がないだろうが」


 そう吐き捨てると、アイフォードは私に背を向けて歩き出した。

 遠ざかっていくその背中を見ながら、私は思う。


 ……ここに来た当初であれば、私はアイフォードが私への苛立ちを感じていると思っていただろうと。


 しかし、今の私はアイフォードのきつい言葉の裏に心配が滲んでいることに気づいていた。


「分からない訳ないよね」


 毎日私の足の様子を確認し、仕事をやりすぎていないかを見に来るその姿。

 それを見て、アイフォードが純粋に私を心配してくれていることを分からないほど私は鈍くなかった。


 そう呟く私の脳裏に蘇ってきたのはあの日、アイフォードにだきしめられた時だった。

 あの時から、私はアイフォードが本当に今でも私を恨んでいるのか悩むことさえあった。

 恨んでいないわけがないと知ってるのに。


 そしてそんな現状に、私はある悩みを抱えていた。


「私はどうするべきなんだろう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] なんでアイフォードこんなに上から目線なんだろう。心配が少し裏にあろうが、言葉選びと態度がなぁ。主人公、あなたは可能性の塊なんだからもっとできることたくさんあるよ〜。なにが幸せかは本人が決める…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ