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第七十一話 信じられない無礼 (クリス視点)

「……まだか」


 それから数日後、私は自室の中落ち着きなく何かを待っていた。

 傍から見ればその様子は、数日前とは打って変わって、生気に満ちて見えたことだろう。


「そろそろ伯爵家から返信があっていいはずなのだが……」


 その理由こそ先日コルクスの部屋で見つけた手紙の存在だった。

 その書類を見つけた私は、即伯爵家へと手紙を出していたのだ。


 マーシェルを侯爵家に返せ、いないのならどこにいるか教えろという旨を記して。


 それからも、もう数日はたっている。

 そろそろ伯爵家から、何らかのリアクションが来ていいはずの時期だった。

 通常であれば、娘に対しての私の態度に怒りを覚える人間もいるかもしれないが、私には勝算があった。


 マーシェルの両親が権力に弱いタイプの人間だと知るが故に。


 あのタイプの人間ならば、どうとでも説得できる自信が私にはある。

 これでようやく、マーシェルを侯爵家に戻すことができるだろう。

 そう考えて、私は笑みをこぼす。


「コルクスも馬鹿な奴だ……。あの封筒さえおいていなければ、私が宛名を知ることもなかったというのに」


 こんな事態になることなど予想だにしなかった私は、今までマーシェルの実家など意識したこともなかった。

 それ故に私は何とかして、使用人に全て指示しているコルクスを説得しようとしていたのだから。


「それにしても、マーシェルが戻ってきたらどうしてやるか」


 そう勝利を確信した私は、未来へと思いを馳せる。

 もちろん何事もなしとはいかない。

 何せ、ここまでの事態が起きた原因は全てマーシェルにあるのだから。

 間違いなく、責任の一端を問うことになるだろう。


「とはいえ、それだけにしといてやるか」


 そう言って、私はさらに笑みを深める。

 本来はマーシェルを痛めつけてやるつもりだったが、今はもうそんなことも考えていなかった。

 そんな私の内心をしれば、マーシェルも泣いて喜ぶに違いない。

 そう考えて私はさらに笑みを深め。


「く、クリス様! お客様が……」


 そんな使用人の声が扉のそとから響いたのはちょうどその時だった。

 待っていた、今のわたしの気持ちにぴったりのその言葉に、私は笑いながら立ち上がろうとして。


 ……しかし、その笑みは次の瞬間勝手に開いた扉によって、固まることになった。


「この部屋か」


 そう言って部屋に入ってきたのは、執事服に身を包んだ初老で小太りの男だった。

 許可もなく部屋に入ってきた彼は、無遠慮に部屋を見回す。


 とんでもない非常識な光景に、私の頭が一瞬固まる。

 しかし、扉を許可なく開いた男はまるでその私の反応など気にせず、にっこりと笑って頭を下げた。


「カインド伯爵家家宰、マイルドともうします! クリス様、お会いしとうございました……!」

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