表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/123

第六十九話 暴走開始 (クリス視点)

「どうして、こんなところに……!」


 それは、以前私があきらめていたはずの書類だった。

 全ては、この書類を捨てさせた使用人は、私の手でクビにしていたが故に。

 なのに、なぜこの書類がこんなところにあるのか。

 まるで想像もしてなかった事態に、私の思考は一瞬停止し、次の瞬間走り出していた。


「こ、コルクス! 書類があったぞ!」


 未だ明かりがついている家宰の部屋にノックもなく私は入る。

 部屋の中では、この時間にも関わらず淡々と書類の処理をする老執事の姿があった。


「一体何のご用ですか? そもそももう深夜です。それに、ノックくらい……」


「いいから聞け! マーシェルが用意していた引継の書類が出てきたんだ!」


「っ!」


 いつもの様に小言を続けようとしていたコルクスの顔色が変わったのはその時だった。

 私が手に持つ書類を奪い取り、すぐに目を通し始める。


 その様子を見ながら、私は久々になる喜びを感じていた。

 ようやく、これで状況が変わると。

 これで、侯爵家は元の様に……。


「……残念ですが、もうこれは手遅れですな」


 ──その私の思考は、コルクスの疲れの滲んだ言葉を聞くまでのはかないものだった。


「何を言ってる? ここに書類があるでは……」


「ご自分でも読まれれば分かりますよ」


 そう言って渡された書類に、私は呆然と目を通す。


 ……そして、コルクスの言葉の意味をすぐに理解することになった。


「何だ、これは?」


 そこに書かれていたのは、確かに貴重な情報ではあった。

 そう、あった。


 ……ここに書かれていた情報のほとんどは今更使えないようなものばかりだった。


 公爵家との交易の詳細。

 また、どう話を進めていけばいいか。

 そして、交易相手の情報。

 使用人の強み。

 また、ネルヴァ達元貴族の使用人達を抑える方法。


 そんなことが事細かに、記されていた。

 その書類は、過去に持っていれば信じられないくらい役に立っただろう。


 だが、もう公爵家との交易は断裂し、交易相手もほとんど減っている。

 また、使用人に関してははるか前に変わり、ネルヴァ達ももうない。

 つまり、ほとんどのことが手遅れとなった今に関しては、今更過ぎる内容だった。


「嘘、だろう……?」


「まあ、情報には時期がありますからな。想像はしておりました」


 コルクスはそう言うと、自身の書類に目を通し始める。

 それは信じられないほど淡泊な反応で、やるべきことを再開する。


「ふざけるな……!」


 ……しかし、私はそう簡単に流せる訳がなかった。

 ようやく見つけた書類であるにも関わらず、全てが無駄だったことで私は限界を迎えた。

 血走った目で、私はコルクスに宣言する。


「コルクス、当主として命令する。 ──現在の業務を凍結してでも、マーシェルを見つけろ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ