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第六話 その言葉の意味

 裏の支配者、それは侯爵家の様々なことを押しつけられた上、肝心の夫は愛人に夢中である私を揶揄する言葉だった。

 夫を省みず、勝手気ままに動くまさに支配者気取りの情けない女という意味の言葉でしかない。

 しかし、なぜここでその言葉を告げられたのか分からず私は茫然と立ち尽くす。


「いい気なものだな。お前はあくまで私のお陰で、侯爵家の一員になったにすぎないのに」


 けれども、そんな私の混乱など知らず、クリスは私を睨みつけて吐き捨てる。


「覚えておけ、お前はただ契約で女主人になっただけの人間にすぎない。これまでもこれからも、お前が私の立場を越えることなどないのだと」


「……っ!」


 しかし、そう告げられてようやく私は理解する。

 なぜ、クリスが私をこうも敵視するのか、その理由を。

 そう、クリスは私の名前が自分より大きいのが許せないのだと。


 ……その程度にしか、クリスは私のやっていることを理解していなかったことを。


 今になって、私はようやく理解した。

 今まで自分が、クリスの為にやってきた全てが、本人にまるで理解されていなかったことを。


 それどころか、その行動こそ自分がクリスに厄介がられる原因だったことを。


「お前はもう用済みだ。これ以上、勝手に侯爵家の名前を使うことは許さない」


 ……今まで私が侯爵家の名前を背負ってやってきた全てを勝手な行為と吐き捨てたクリス。

 それに茫然とする私に、クリスは冷たく吐き捨てた。


「さあ、早く去れ。契約後に渡すはずだった金の代わりに、今までのことには目をつぶってやる。だから、もう私の目の前に現れるな」


 ……それが、クリスに告げられた最後の言葉だった。



◇◆◇



 それから、すぐに私は屋敷の外に追い出された。

 元侯爵夫人というのが信じられないほど乱雑に追い出された私は、少しの間玄関から動けなかった。


 このままここにいてもどうしようもない、そのこと分かっている。

 けれど、どうしても足が動かなかった。


「……私、これからどうすればいいんだろ」


 ぽつり、私はそう呟く。

 本来契約で貰えるはずだった、金銭もなく、もちろん家からお金を持ってきてもいない。

 現在の私は、一文無しに近い状態だった。

 そして、一応とはいえ貴族令嬢だった私は、庶民の暮らしも知りはしない。

 もう実家にも戻れない私が、これからどうすればいいのか。


「早く、どうするか決めないと……」


 その自身の状態に私はそう呟いて……けれど、その言葉が私の胸を打つことはなかった。

 自分のどうしようもない状態を私ははっきりと理解していた。

 このままではのたれ死ぬしか、ないのだと。


 なのに、私の頭は別のことに支配されていた。


「……勝手に侯爵家の名前を使うのを、許さないか」


 そう呟く私の脳裏によぎるのは、今までの生活。

 それは全ては恩返しのためと、そう思って、全てを投げ捨てて侯爵家の為に尽くしてきた日々だった。

 それをクリスは勝手に侯爵家の名前を使う行為と断じた。

 それこそが何より、雄弁に私の行動をクリスがどう思っているかを示していて。


 ……その事実が何よりも私の胸に深々と突き刺さっていた。

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