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第六十三話 勝算の理由

 淡々としたアイフォードの言葉。

 しかし、そこに込められていたのは、強烈な拒絶だった。


「……え?」


 それを受けて、ウルガは言葉を失う。


「いつものように慰めてくれると、嘘だとでも言ってくれると思ったか? 悪いが、もう優しさは売り切れてしまってな」


「……嘘」


「それはお前が裏切った兄貴の台詞だよ。まあ、俺から見ればいい気味だがな」


 そういって、アイフォードは鼻で笑う。


「とはいえ、そんなやつでも侯爵家当主だ。お前程度の理由で反抗する訳には行かなくてね」


 そこで、アイフォードは初めて笑顔を消した。


「まあ、それらの話を抜きにしても俺はお前が嫌いなんだがな。──俺の大切なものに散々手を出しておいて、ただですませる訳がないだろうが」


「……っ!」


 私からも感じられるほどの怒気をまともに受けたウルガが硬直する。

 その頃には私も理解していた。

 もう、止めることはできないと。


 ……自身の使用人を傷つけられたことを知っているのか、明らかにアイフォードが激怒していたが故に。


 ここまで言われてウルガが黙っている訳がなかった。


「……この、裏切り者!」


 ヒステリックに逆ギレの言葉を叫ぶウルガ。

 その目には、先ほどまで存在していた熱はなかった。

 代わりにその目に浮かんでいたのは、その熱が全て変化した様な憎悪だった。

 ……それを目にし、私の胸に改めて焦りが溢れだす。


「私をもてあそんでいたのね! 私がここまで尽くしてあげたのに、ふざけるな!」


 このウルガを私はどう対処すればいいのかと。

 だが、このウルガを止めるには今すぐ牢獄に入れるしかなく、そんな権限は私にもアイフォードにも存在しない。

 準男爵たるアイフォードがウルガを告発すれば、比較的早く動いてくれはするだろう。

 しかしそうだとしても、数ヶ月は調査の期間となる。

 アイフォードなら、それを二ヶ月程度に縮められる可能性もあるが、それでもウルガが自由に動ける時間がそれだけあるのだ。


 このままでは、そんな焦燥が私の胸によぎり。


「私を捨てたことを絶対に後悔させてやる! 私の知る限りの貴族に言いつけてやるわ! 準男爵ごときが逆らえないような貴族と私は……」


「話の途中悪いが、俺がその程度対処してないとどうして思えた?」


 アイフォードが笑顔で告げたのは、そのときだった。


「……は?」


 まるで想像もしていないだろう言葉に、ウルガが呆然と声を上げる。

 突然扉が開かれたのは、そのときだった。


 次の瞬間部屋に入ってきたのは、王国騎士であることを示す軽装の鎧を身につけた騎士だった。

 まるで理解できない状況に呆然とする私たちをよそに、騎士は無遠慮に部屋の中に押し入ってくる。


「なんなんだ、この騒ぎは……? て、隊長!?」


 だが、その騎士はアイフォードの姿を見た瞬間、急に態度を変えた。

 そんな騎士にため息をもらし、アイフォードは口を開く。


「……お前、命令の意味も理解できないのか? 俺は少しでも騒ぎが起きたら屋敷に来るよう言っていたよな? 騒ぎが起きてからどれだけ時間がたったと思ってる?」


「そ、その……、あはは」


「まあ、今来たから許してやる」


 アイフォードの雰囲気が急激に変化したのは、その瞬間だった。

 近くに寄れば、切れてしまいそうな鋭い雰囲気。

 それを纏ったアイフォードは、ウルガとネルヴァを指さし口を開く。


「黒蜥蜴騎士団団長として命じる。そこの男女は侯爵家から窃盗を行った可能性がある。いち早く、取り調べを行い、自白させろ」


 ……そしてアイフォードが告げたのは、まるで信じられない言葉だった。

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