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第五十九話 この場に来た理由 (アイフォード視点)

 信じられないと言った様子で俺を見るマーシェル。

 その姿に、乱暴された跡がないことを確認して俺は内心、安堵の息をもらした。


 ……途中見つけたメイリに気を奪われていたが、何とか間に合ったと。


 内心平静を装いつつも、俺の鼓動は信じられないくらい高鳴っていた。

 そんな自分に気づきながら、俺は唇をかみしめる。

 本当にこの人は、ためらいなく自分を犠牲にしようとする。


 先ほど聞こえたマーシェルの啖呵。

 それは俺の記憶に焼き付いていた。

 そして、それがマーシェルの本気であることも俺は知っていた。

 このままであれば、ためらいなくマーシェルは自分を犠牲にしようとしていただろう。


 ……もし、この状況に間に合わなかったら、どうなっていたことか。


 そう考えて、俺の胸にひやりとしたものがよぎる。

 俺が今ここにきたのは、ウルガの様子がおかしいことに気づいたからだった。

 いつもなら早くくるウルガが遅れてきたこと。

 そして、少し様子が変だったこと。

 その異常にマーシェルが関係していると判断して、俺は様子を見に行って自室ではない方向に向かうマーシェルを見つけたのだ。


 そして、それをつけるネルヴァも。


 本当に、異常に気づいてよかったと、俺は内心強く思う。

 もちろん、俺はマーシェルが暴走したときのことを考えて、様々な準備をしていた。

 しかし、その人間達がここにいないということは、それに何の意味もなかったことを物語っていた。


 ……とはいえ、それも当然の話かもしれない。


 何せ、マーシェルは俺に隠れて何かを計画できるほどには用意周到なのだから。

 マーシェルを見失った際見かけたメイリのことを思い出し、俺はそう思う。

 とにかく何とか、間に合ってよかった。

 そう俺は再度安堵し。


 ──だが、それで怒りが消える訳ではなかった。


 俺は未だ呆然とこちらを見ているマーシェルを自分で守るように振り返る。

 そして、未だ立ち上がらないネルヴァを睨みつけた。


「なあ、ネルヴァ? お前、俺の客に何しようとした?」


「……っ!」


 その瞬間堪えきれず、俺の怒気が漏れ出す。

 それを敏感に察したのか、ネルヴァの顔が青ざめた。

 その顔にはこんな怒りを向けられる覚えがないと言いたげな驚愕が浮かんでおり、それが俺の神経を逆撫でする。

 しかし、すぐにネルヴァはその表情を笑顔で覆い隠し、口を開いた。

 そして、ゆっくりと立ち上がろうとして。


「何か誤解があるようですが私は……っ!」


 ……その直前、俺はネルヴァの足を払って、立ち上がることを阻止した。


「あがっ!」


 想像もしていなかったことに、ネルヴァは盛大に壁に身体を打ち付け、大きな音がなる。

 けれど、そんなことを一切気にすることなく、俺はネルヴァをにらみながら告げる。


「誰が動いていいと言った? いいからそのまま質問に答えろ」


 そう言って、俺はゆっくりとひざを廊下について、ネルヴァと目線を合わせて告げる。


「お前は、目の前の人間に何をしようとしていた?」


「……っ!」


 その瞬間、ネルヴァの顔に焦りが浮かび。


 こつこつと、新しい人間の足音が響いたのはそのときだった。

 音の方へと反射的に目を向けると、そこに現れたのは不機嫌さを隠そうともしないウルガだった。


「何の音よ、一体……」


 ──その新たな人間の出現に、ネルヴァが唇を歪めた。

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