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第五話 裏の支配者

 こんなにあっけなく終わってしまったのか、そんな思いが私の胸の中に浮かぶ。

 けれど、その思いに浸る時間も私に与えられることはなかった。


「これで、私はクリス様と一緒にいられるのですね!」


 愛人は場違いなほど明るい声を上げて、クリスに抱きつく。

 それでも笑みが浮かんだ顔はこちらの方に向けられていて、私はその時の愛人の勝ち誇った気持ちが手に取るように理解できた。

 そんなこと、なにも気付かずクリスは愛人を抱きしめる。


「ああ、これでお前は正式に私の妻だ」


 さらに笑みを深め、こちらを見てくる愛人。

 それに、私の心の中は悔しさがあふれ出す。

 何もせず、ただ愛されてきただけのお前が、全てを持って行くのかと。


 それでも、私はその気持ちを抑え込んだ。

 言いたいことがない訳じゃない。

 それでも私はクリスには感謝していた。

 あの実家という地獄から、助け出してくれたクリスを。

 だから私は、全ての感情を抑え、ある書類を取り出した。


 それは、女主人を引き継ぐに当たって必要なことを記した書類だった。

 これさえあれば、この愛人でも侯爵家が揺るぐことはないだろう。

 それを私は、いまだ勝ち誇った様子を改める様子のない愛人へと差し出す。


「……これは女主人としての心得を記したものよ」


 怒りに溢れた内心を必死に抑えながら、私はその書類を愛人に差し出す。

 ……しかし、その私に対する愛人の返答は、書類を叩き落とすことだった。


「……っ!」


「何これ? こんなもの見せつけて、前妻だったことを誇る気なの?」


 あっけに取られる私へと、愛人が向けていたのはいらだちを隠そうともしない表情だった。

 その表情に対し、私は怒りを覚える前に呆然と立ち尽くすことしかできない。

 それでも私は何とか、口を開く。


「違うこれは……」


 ただ、今後の侯爵家に必要と思っただけ。

 その私の気持ちを伝える機会は永遠に失われることになった。


「……お前は、私を挑発しているのか?」


 突然、クリスが怒りを露わにしたことによって。

 まるで想像もしていなかったその反応に、私は茫然と立ち尽くすことしかできない。

 しかし、そんな私を気にすることなくクリスはさらに告げる。


「侯爵家の裏の支配者といわれ、いい気になっているのを私が知らないと思ったのか?」

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