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第五十二話 ネルヴァの不在

 その決意の翌日、私はいつもの様にウルガの部屋に行く。

 ……しかし、その部屋にたどりついた私は、昨日の決意がありながら、顔色を変えずにはいられなかった。


 いつもの様ににっこりと笑うウルガ。


「今日も相変わらず惨めな姿ね、マーシェル」


 ……その隣に、ネルヴァの姿がないことに気づいて。

 表面上はいつも通りを装いながら、私は内心思う。


 こんな時に嫌な状況が重なってしまったらしい、と。


 決してネルヴァが私に優しいなどと、そういう話ではない。

 前の時、私に雑巾を投げつけたたように、ネルヴァも私を恨んでいる。


 ただ、ネルヴァは絶対に一線を越えるようなことはしなかった。

 ここを追い出されれば、ウルガと違い、ネルヴァにはもう行くところなどありはしない。

 それを理解している故に、ネルヴァは慎重であり、ウルガにも私にやりすぎないよう言いつけていた。


 ……だが、ネルヴァがいないとなれば、今日のウルガは私を責める手をゆるめることはないだろう。


 そう考えて、私はかすかに唇をかみしめる。

 普段であれば、私もネルヴァの不在を喜ぶことができただろう。

 何せそれは、ウルガの口が軽くなることを意味するのだから。


 しかし、明日までに何かしら決定的な証拠を見つけたいと考えている今は、この状況は最悪のものだった。


 実のところ、核心となる情報がまったく手に入っていないのは事実だが、一切何の情報もないという訳ではなかった。

 普段のやりとりから、私はウルガとネルヴァが何らかの手段で金銭の確保に動いており、今の状況から侯爵家から横領した物品を換金し資金を得る場として考えられるのは、質屋しかないこともわかっていた。

 その店さえ分かれば、メイリが証人を見つけてくれるだろう。


 ……しかし、何の手がかりも無く、ただ漫然と質屋を虱潰しに調べるには、あまりに質屋の数が多すぎた。

 それも、この屋敷の近辺だけの話であってもだ。

 侯爵家周辺の質屋も捜索の対象に入れるとなれば、もう特定することなどほぼ不可能だ。

 だからこそ、私は多少強引な手を使ってでもそれらに関わる証拠を見つけ、店名だけでも確認しようとしていたのだが……。


「それじゃ、まずはいつも通り掃除をしてもらおうかしら? もちろん出来によってはやり直ししてもらうから」


「……はい」


 その計画は、はじめから狂い始めていた。


 なんとかして体力を温存し、証拠を探すだけの余力を残さないと。そう思いながら私は掃除に取りかかる。


 ……しかし、そんな自分を見つめるウルガの嗜虐的な目に、全てが狂っていく予感を私は感じていた。

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