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第四十話 さらなる尾行

 それからしばらく。

 完全に誰の気配もないことを確認した私は、安堵の息をついた。


「心臓が止まるかと思った……」


 まさか、あんなかすかな物音にアイフォードがあんな過敏に反応するなど思ってもいなかった。


「……そんだけ鋭いなら、ウルガの言ってることのおかしさにも気づけばいいのに」


 そう思った私の口から、そんな文句が漏れる。

 しかし、そんな思いを私は直ぐに心の奥底に封じ込めた。


「ウルガを追い出したところで、私に目が向けられることなんてないのだから」


 そう、これはあくまでウルガが害を為す前に追い出す為にすぎないのだ。

 そう自分に言い聞かせ、次の瞬間切り替えた私はぽつりと呟いた。


「……それにしても、あの声」


 途中、聞こえた聞き覚えのある男性の声。

 メイリの言っていたことを思い出しながら、私は呟く。


「もし、私の想像通りの人間だったとすれば……」


 そう告げた私の胸には、侯爵家の女主人としてやっていた頃の感覚が蘇ってくるのを感じていた。

 声の人物だけは、なんとしてでも確認しておかねばならない。

 そう判断した私は、隠し通路を後にする。


 そして私が向かったのは、ウルガ達が案内されていた場所だった。



 ◇◆◇



 それから私が忍び足で向かったのは、私の寝室とは真反対の方向に位置した場所だった。

 隠し通路に身を潜めていた私の身体は、お世辞にも綺麗とはいえない。

 それどころか、埃をかぶった身体はネリアかメイリが見たら、顔を真っ赤にして怒りそうな状態だった。

 けれど、私は自分の身体を綺麗にすることさえ後回しにし、向かう。


 ……全ては一刻も早く事実を確認したいという思いから。


 そして部屋の扉が見える柱の陰にたどり着いた私は、そこで息を潜める。

 私は決して、人を尾行するすべなど身につけてはいない。

 だが、ここまで離れていればさすがに見つからないという確信が私にあった。


「……っ!」


 それから私の望み通り扉が開いたのは、数分も経たぬ内のことだった。

 扉から、現れたウルガの姿に、私の肩が緊張で震える。

 けれど、扉から出てきたウルガが私の姿に気づくことはなく。

 そのウルガに続いて、もう一人人間が現れる。


 ──それは私の想像していた通り、侯爵家の執事をしていたネルヴァという男だった。


 確認できたその事実に、私は思わず笑みを浮かべる。

 これなら、しっぽを捕まえるのは決して難しい話ではないと。


 ……けれど、私がそうして笑っていられたのはそのときまでだった。


「早く出てきなさいよ!」


 苛立ちを隠さずそう叫ぶウルガの姿。

 私は、その姿に嫌な予感を感じる。

 一体何に、そんな苛立ちを露にしているのかと。


 そしてそれは直ぐに、私の目前に晒されることとなった。


「っ!」


 次の瞬間、ネルヴァが小さな人影を、部屋から引っ張り出す。

 その人影は、私のよく見知った人間。


 ──この屋敷の老婆の使用人、ネリアだった。

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