表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/123

第三十四話 穏やかな生活

「……いい天気ね」


 アイフォードの屋敷にやってきてから早二ヶ月近く、私は窓から差し込む日差しに目を薄めていた。

 陽気な天気は私の心を確実に癒してくれて、私は思わず微笑む。


 ……しかし、直ぐにその微笑みは陰ることになった。


「はあ。本当にどうしてこんなことになったんだろ、私」


 そう言いながらも、私は理解していた。

 本来自分は、こんなことを言える立場にないことを。

 私の立場は決して悪いものではない。

 それどころか、周りの人間が聞いたら驚くような扱いを受けていた。


 ……あまりにも手厚い、という意味で。


 それでも私は、逆に不安を覚えずにはいられなかった。

 間違いなく、今現在私が屋敷で受けている扱いは恨みを持った人間にするものではない。

 というのも、こうしてゆったりする時間があることからもそれはわかるだろう。

 一日二日なら、まだ優しさだと思う。

 しかし、ここまでくると居心地の悪ささえ、私は感じていた。


 そしてもちろん私は、この生活に関して、ネリアを通じて抗議していた。

 ……なぜ、恨まれている側が厚遇に関して文句を言うのか、なんて思わないでもないが。


 けれど、何度抗議しても割り振られるのは侯爵家にいたころとは比較にならない些細な仕事だけ。

 あげくの果てに、ネリアから伝えられる伝言はいつも同じ。


 ──有事の際に動けなかったらどうする? お前の立場を考えて抗議しろ。


 その内容を思い出し、私は小さくため息をもらす。


「……私の方が明らかに立場を考えたこと言ってるわよね?」


 有事の際になど言われているが、どう考えても有事は今としか思えなかった。

 何せ、ここのところアイフォードの帰宅は遅く、ネリアもまたせわしなく動いている。

 準男爵という立場を得て日が経っていないことを考えると、それで非常に忙しいのだろう。


 ……なのになぜか、私が手伝うことはほとんど許されないのだ。


 もちろん、外部の人間に当たる私に押しつけられない仕事もあるだろう。

 それはわかるが、私がこっそり掃除などの雑務をしようとしても、怒られるのだ。

 使用人に任せた方が早いから手を出すな、と。


「私、伯爵家にいた頃は雑務していたって話したはずなのになぁ……」


 ぽつりと漏らした言葉は、空の中に消えていく。

 とはいえ、さすがに手持ちぶさただから、何とか仕事を貰わないと、と私はそんなことを思う。


 私の部屋がノックされたのは、そんな時だった。


「マーシェル様、少しよろしいですか?」


「……ネリア?」


 この時間は家事をしているはずなのに、一体どうしたのだろうか?

 そんなことを思いながら、私は扉まで歩いていく。


「どうしたの? ……っ!」


 そして扉を開け放った私は、外の景色に立ちすくむことになった。

 にこにこと笑うネリアの後ろ、そこに立っていた人間はそんな私を見て、口を開いた。


「お久しぶりです、マーシェル様」


「……メイリ?」


 笑顔の彼女を見た私は、呆然とその名前を口にする。

 その私の言葉を受けて、かつて侯爵家で私の腹心だった彼女はにっこりと笑った。


「はい!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] さすがに草
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ