第二十四話 何も知らない人間 (ウルガ視点)
「……何で、何で、何で!」
ネルヴァが地下牢へと入れられたあと。
私、ウルガは自室の中どうしようもない苛立ちを堪えきれず呟いていた。
どうしようもない苛立ちは、どれだけそう呟いても私の中から消えることはない。
そのことを理解しながらも、私は当たるように何度も何度もその言葉を繰り返す。
……無駄だと分かってもその行動をしてしまうほどに、現在の私の状況は想像もしてないものだった。
本来であれば、私は今ここで自由な生活を送っているはずだった。
けれど、その想像と実際の現実は大きく違った。
仕事が忙しいと、一切自分を構ってくれなくなったクリスは、急に自分にも書類の処理を頼むようになってきた。
といっても、まだそれだけなら我慢はできた。
「これが、侯爵家女主人はもっと贅沢できるんじゃないの!」
そう、私が一番気にいらないのは、まるで変わらない生活水準だった。
いや、むしろ愛人時代であった方がもっと豪華な暮らしをしていたんじゃないか。
そうとさえ、思うときがある。
それらの鬱憤を晴らすように私は執事のネルヴァと関係を持ったが、それもネルヴァの横領が発覚した時は血の気が引いた。
幸いにもクリスの方は一切気づいていないが、コルクスは明らかに全てに気づいていた。
それどころか、ネルヴァの横領の責任が私にもあると言いたげに、衛兵達によって私を見張らせるようになっていた。
そのせいもあって、以前にも増して私の生活は窮屈なものとなっていた。
「なんで、全部全部上手く行かないのよ! 私は侯爵家の女主人なのよ!」
そして、この現状に私ができたのはそうして叫び、鬱憤をぶつけることだけだった。
日々の生活では、発散できもしない鬱憤をぶつけるように私は叫ぶ。
……しかし、それに何か意味があるどころか、返ってくる声さえ存在しなかった。
その現実に、私は頭を抱えて呟く。
「どうして、女主人にさえなれば、全部上手くいくはずじゃなかったの?」
どうしてこんなにも上手くいかないのか、そう私は呆然と呟く。
「……ようやく、あの忌々しい女を追い出すことができたのに!」
そう叫ぶ私は知らない。
全ての原因は、その女を追い出したことだと。
そう、私はもっと早くに気づくべきだったのだ。
自分が一方的に敵視していたその存在が、一体どんな存在かを。
──未だ、自分の思い通りに物事が動かない、その程度を嘆いている私が、現在の状況を理解することはなかった。




