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第二十一話 愚者の判明 (クリス視点)

 私をみるコルクスの顔に浮かんでいたのは、今まで見たこともないような呆然とした表情だった。

 しかし、それから数分してようやくといった様子で口を開く。


「……ご冗談を。書類に関してはクリス様のご確認ももらっていたはずですよね」


「書類……?」


 その瞬間、私はそれは以前まで私が処理していた書類のことを指していると気づく。

 けれど、それは私がただ侯爵家の判を押すだけの書類で。


 ……その中身まで、私が見たことなど今までなかった。


 そんなことをいえる訳もなく、私はどう言い訳しようか必死に頭を回す。

 だが、そのときすでに手遅れだった。


「まさか、あの書類の中身を見てさえいないのですか?」


 私の態度から悟ったコルクスが、初めて聞くような震える声で尋ねてくる。

 それに誤魔化しきれないと頷いた私に、呆然としながらコルクスはつぶやいた。


「……こんな馬鹿がどうして?」


「……っ!」


 それは初めて、コルクスが面と向かって私に告げた罵倒だった。

 けれど、そのときすでに私の胸に怒りがわくことさえなかった。

 ただ、呆然とすることしかできない私を、コルクスは信じられないものを見るような目で見ている。

 しかし、次の瞬間部屋から飛び出し、叫び始めた。


「誰か、早くアルバスを呼べ!」


 そう叫んだ後、焦燥を隠さない表情で戻ってきたコルクスは私に叫ぶ。


「私は公爵家との交易には関わっておりませんでしたが、アルバスが奥様のサポートをしていました。アルバスさえいれば、今からでも話を……」


「……まて、そんなありえない」


「は?」


 呆然とたたずむコルクスに、私はゆっくりと口を開く。


「あの男は、もう侯爵家にいない」


「は?」


 その言葉に、コルクスは言葉を失う。

 そして、信じられないと表情で語りながら口を開いた。


「待って、ください? あのアルバスが、侯爵家を後にしたのですか?」


 ……その言葉に、私は何も答えることができなかった。

 もう、分かっていた。

 すべて自分のせいであると。

 けれど、今の私にはそれを認めることはできなかった。


「あの裏切りものが一体何をしたと思っている!」


「……裏切り者?」


 その瞬間、コルクスの顔から表情が抜け落ちる。

 けれどそれで止まることなく、私は叫んだ。


「そうに決まっているだろう! あの男は、王宮に逃げたんだぞ!」


 それを言ってから、しばらくの間コルクスは何も言わなかった。

 ようやくその口を開いたのは、それから少ししてのことだった。


「……奥様にはどう、謝罪すれば。こんな人間の下で奥様はあがいていたのか」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] こんな出来損ない、先代はなんで廃嫡しなかったんだろうか [一言] 救いようのない愚者だな
[一言] うわは、メクラ判押していただけかい! ヘタすると嫁追い出して筆頭執事牢に入れていた間に、汚職家臣に出されたトンデモナイ内容の書類にもメクラ判して、破滅への決定的引き金引いてそう。w それこそ…
[一言] コルクス表情抜け落ちすぎてて笑った
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