表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/123

第十九話 最悪の事態 (クリス視点)

 それから、侯爵家は一気にあわただしくなった。

 何せ、ネルヴァ達が盗んでいたものはそれだけ価値の大きい物だったのだから。

 それから数時間、ようやく一息つける段階にまで確認が終わった私とコルクスは、情報の擦り合わせのために書斎に集まっていた。


「ふむ。それでウルガ様の懇願で、ネルヴァは地下牢に幽閉するだけと」


「……ああ」


「斬首されてもおかしくない罪を犯したのに、それだけの罰ですか?」


 そう問いかけてくるコルクスの声はいつにもまして厳しく、私は唇をかみしめる。

 けれど、今の私には決死の表情で訴えてくるウルガを説得しようとする気力など残っていなかった。

 そんな私にコルクスが眉をひそめ、告げる。


「そもそも、あの様にしてウルガ様が訴えることになんの異常も感じないのですか?」


「うるさい! それなら貴様が説得したらよいだろうが!」


 その瞬間、私は耐えきれず叫び返していた。


「何だ貴様は! すべて私のせいだといいたいのか」


「はい」


「……っ!」


 私の言葉に一切の躊躇なく頷いたコルクス。

 その態度に、私の目の前が真っ赤に染まる。


「そもそもあんな使用人を残していたマーシェルとお前の責任だろうが!」


 次の瞬間、私は怒りのままにそう叫びながら腕を振り上げていた。

 だが、その平手がコルクスに当たることはなかった。


 ……その前に、コルクスに殴られたことによって。


「あがっ!」


「本当にどうしようもありませんな、貴方は」


 痛みにのたうつ私を見て、コルクスが吐き捨てたのは、そんな一言だった。


「そもそもあんな質の悪い使用人が来た経緯をどうして忘れられるのか」


「な、何を……」


「あの使用人をこの家に入れると強引に決めたのは貴方です」


「は?」


「覚えていませんか? 貴族の使用人を迎え入れるのは、侯爵家の人間として当然と迎え入れたことを」


「……っ!」


 私の頭にかつての記憶が蘇ったのはそのときだった。

 確かに私は、ほかの貴族に請われるまま三男や、娘を使用人として雇うことを決めた。

 ……それがネルヴァ達など知る由もなく。


「そして、クリス様がクビにした使用人こそ、横領の証拠などを掴んでいた人間です」


「なっ!」


「分かりませんか? 貴方はネルヴァにいいように使われていただけなんですよ。──今までネルヴァを押さえ、家を回してくれていた奥様を捨てて」


 その瞬間、私はようやく理解する。

 自分の行為がもたらした事態を。


 ……自分がいったい、何をしたのかを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ