第十六話 書類に記されていたこと (クリス視点)
「それはよかった」
私の言葉を聞いた後、一切表情を変えることもなくコルクスはそう頷いた。
それを見ながら、私は内心悔しさに打ち震えていた。
どうして当主である私がこんな目にあわねばならないのだと。
いつか、必ずこの報いを受けさせてやる、そう私は内心強く決意する。
ふと、アルバスからもらった書類を私が思い出したのはそのときだった。
それが何なのか、未だ私は読めていない。
だが、最後の奉公と言っていたことを考えれば、この書類は何らかの役に立つものだろう。
もしかしたら、どこかの貴族の弱みでも記されているかもしれない。
そんなことを考えた私は、無造作に机にしまい込まれていた書類を取り出した。
「家宰に戻るなら、きちんと仕事はしてもらうぞ。まずは、アルバスから預かったこの書類の中身を私に教えろ」
そういって八つ当たり気味に私が投げた書類を受け取ったコルクスは、一瞬その顔に呆れを浮かべる。
「……これは侯爵家の暗号ですな。なぜ当主である貴方がこの暗号を読めないの……っ!」
コルクスが表情を一変させたのは、そう嫌みを告げている最中だった。
突然無言になったコルクスはその後一言も口を聞くことなく、無心で書類の束を読み込んでいく。
それを見ながら、私の胸の中期待が膨れ上がっていく。
ここまでコルクスが真剣に読んでいるということは、この書類は中々のものなのだろう。
一体中には、何がかかれているのか。
気になった私は、コルクスが読んでいる途中にも関わらず声をかける。
「おい、そこには一体何がかかれて……」
「黙っていてください」
「……っ!」
しかし、その私の言葉に対するコルクスの反応は怒気のこもった言葉だった。
「言いたいことは山ほどありますが、今は一つだけ。──この書類を読む私を邪魔しないでください」
それだけ言うとまた書類を読み込む作業に戻ったコルクスに対し、私は何も言うことができなかった。
ただ、おとなしくコルクスが書類を読み切るのを待つ。
そしてただならぬ表情のコルクスが書類から目を離したのは、それから十数分もたった頃だった。
私は咄嗟に声をかけようとするが、その前にコルクスが叫んでいた。
「今すぐ屋敷内の衛兵を集めろ! 数分後には、直ぐに動ける様に準備しろ!」
「は、はい!」
その声に衛兵は、一目散に部屋から走り去っていく。
それを確認してから、ようやくコルクスはこちらを向いた。
「クリス様、この屋敷内で横領が行われている可能性があります」
「……は?」
──そしてコルクスが告げたのは、想像もしない言葉だった。




