第十五話 家宰になるのは (クリス視点)
「……強がりを!」
コルクスに対してそう叫びながら、その内心私は動揺を抑えることができなかった。
どうして家宰の立場を奪われると言われ、こんな表情を浮かべられるのか、私には理解できなかった。
そんな私をまっすぐと見つめ、コルクスは告げる。
「いえ、本当にご自由に。アルバスならば、私の後を問題なく継いでくれるでしょう」
「……アルバス?」
その名前に一瞬私は首を傾げ、気づく。
そういえば、昨日王宮使用人になると出て行った執事の名前がそんなものだったと。
「あんな男に家宰の座などやるわけがないだろうが」
そこまで考え、私は思わずそう吐き捨てていた。
止めても聞かずに出ていったアルバスを家宰にしようとすれば、何度頭を下げねばならないか。
そもそも、あんな陰気な男を家宰にするなど私は認められなかった。
「……ほう」
コルクスの雰囲気が急に変化したのは、そう告げた時だった。
想像もしない反応に思わず目を見開く私に、コルクスは淡々と尋ねてくる。
「では、一体誰を家宰にするつもりだったのですか?」
「そ、そんなのネルヴァに決まっているだろう!」
「そうですか。では、私は家宰の立場から降りるのをやめさせていただきます」
「なっ!」
部下とは思えないコルクスの発言に私は呆然と立ち尽くす。
しかし、コルクスはそんな私など気にせず吐き捨てる。
「あんな男に侯爵家を牛耳らせる訳には行きませんからな」
「き、貴様一体どの立場で……」
そのときになって、私の胸に怒りがあふれ出す。
しかし、そんな私を真っ向から見返し、コルクスは口を開く。
「これは言いたくはありませんでしたが──私と侯爵家を巡ってやり合いますかな?」
「……は?」
それは想像もまるでしていなかった言葉だった。
コルクスは今までそれだけ厳しいことを言っても、こんな謀反をほのめかすようなことを言ったことはなかったのだから。
しかし、信じられない言葉に呆然としている時間も私にはなかった。
コルクスに付き添ってきた衛兵がゆっくりとコルクスの側に……それもまるで守るように移動するのを見て、私は反射的に理解する。
ここで発言を間違えると、何か取り返しのつかないことになると。
「わ、分かった! ネルヴァを家宰にするのはやめにする!」
その瞬間、私はそう叫んでいた。
……そして、その行為が私の首の皮をつなげることになった。




