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第十三話 去りゆく背中 (クリス視点)

「……は?」


 執事の言葉の意味が分からず、私はただ唖然と声を漏らす。


「あれだけ言われるがままに有能な使用人を追い出しておいて、分からないんですか?」


「っ!」


 しかし、冷めた目の執事に見つめられ、私は理解する。

 執事が言っているのは、今までクビにした使用人達のことだと。


「何を言っている? あの者達は仕事をしないから解雇した……」


「その現場を実際に見たことがあるのですか? どうせ、ネルヴァと取り巻きに言われるがまま、解雇しただけでしょうに」


「……っ! 貴様に何が分かる!」


「それはこちらの台詞ですよ」


 執事が隠す気のない怒気を露わにしたのはその瞬間だった。


「つまらない嫉妬で奥様の築いてきたすべてを壊した貴方に、我々使用人がどれだけ怒りを感じているか分かりますか?」


 その怒気に私は一瞬気圧される。

 直後に怒りがわいてくるが、それを目の前の男にぶつけることはできなかった。

 ……何せ、この執事は近日王宮に召し上げられる存在だ。

 そんな男に手を出すわけには行かず、代わりに私は執事の言葉を鼻で笑ってやる。


「はっ! 何を言うかと思えばマーシェルの築いてきたことだと? あのサボっていただけの女が何を築いたというつもりだ……!」


 しかし、そう告げた私に執事が向けたのは、どうしようもない何かを見る目だった。


「……そうですか。本当に前侯爵様がお労しい」


「どういう意味だ!」


「いえ、もう家を去る者の戯言です」


 そう言って立ち上がった執事は、机から書類の束を取り出した。

 それはまるで何が書いてあるか分からないようなものだった。

 それに疑問を覚えながらも一応受け取ると、満足したように執事が一礼した。


「侯爵家に拾われたものの最後の奉公です。これをコルクス様にお渡しください」


「っ! まて、まだ話は……!」


 そう私は叫ぶが、歩き出した執事が止まることはなかった。

 最後に一礼して、背を向ける。


「何が最後の奉公だ……! 恩知らずが!」


 その背中が見えなくなっても、私はそう吐き捨てる。

 けれど、私は後に気づくことになる。


 ……この時、なんとしてでもこの執事に残ってもらえるよう懇願するべきだったと。

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― 新着の感想 ―
[一言] 最後の一文、現実を知ってからの後悔なんだろうけど 手当たりしだいに解雇してりゃあねぇ……。 現場を見ようともしない働かない無能な当主と、 一緒に動いてくれる夫人なら、 使用人がどちらを信頼…
[一言] なんか頻繁に残ってもらうべきだったとか後悔してるな
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