第十八話 決闘
明日2月27日、契約結婚コミカライズ2巻発売になります!
はてな先生の麗しい表紙が目印になりますので、よろしくお願いいたします!
「……っ! マーシェル!」
何が起きたのか信じられない、そんな様子で固まったセルタニア。
しかし、その硬直は一瞬だった。
すぐに私をにらみつけ、叫ぶ。
「何が私の夫よ! あんたはアイフォード様に不相応だわ!」
目を血走らせて叫ぶセルタニア。
その様子に、内心私は思う。
……本当にセルタニアは何も理解していないのだろうと。
ずっと、セルタニアにとって私は蔑む対象でしかないのだ。
私が伯爵家から出てもう何年も経つ。
しかし、そんなことセルタニアには関係ない。
私の持っているものは、変わらず奪う対象。
それがセルタニアの思考。
そう理解して、私はため息をこらえるのに必死だった。
「それが答えでよろしいかしら?」
──なぜ、援助を求めにきた場所で私に喧嘩を売るのか。
「何よ! あんた、伯爵家令嬢の顔を叩いたのよ!」
そう、本来私とセルタニアの間には身分がある。
それでも私がこんな強引な方法を採った理由は一つ。
そうしても許される立場であると、セルタニアに示すため。
「父上と母上に言ってやる! あんた、今からどんな目に遭うか知らないわよ!」
しかし、その顔を憎悪に染めて叫ぶセルタニアにはその意味は一切伝わっていなかった。
そのことに、私は頭が痛くなってくる。
せめて話が通じる方、マイルズへと私は顔を向ける。
「マーシェル様、ご自身が何をしたのかおわかりですか」
……故に、マイルズの言葉に私は絶句した。
勝ち誇ったようにこちらを見てくるマイルズに、私は何を言っていいか分からなくなる。
何をしたのかおわかりか、それはこちらのせりふだった。
新婚の家に乗り込んで妻を侮辱した上、その夫に色目を使う。
それに対し、私がしたのは夫に色目を使ったセルタニアの頬をはたいたことだけ。
それでどうしてここまで上から来られるのか。
心から呆れながら、私は決める。
……公爵閣下を匂わせる位はした方がいいのかもしれない、と。
「この件は、抗議させて頂きます!」
肩を怒らせて叫ぶマイルズを見て、私は思う。
……伯爵家がこのことを問題にしたとして、どの貴族が取り合うだろうかと。
「それは私もこのことを抗議して大丈夫ということかしら?」
「ええ、ご自由に。現在のマーシェル様のことを取り合う貴族がいるならですが」
私の言葉に見下すような笑顔で吐き捨てるマイルズ。
その姿に、私は理解する。
暗に公爵家の後ろ盾をほのめかしたことに、マイルズが気づいていないことに。
私と公爵家の関係は、伯爵家の人間であれば知っているはずのことだ。
なのになぜ、思いつくこともないのだろうか。
そう呆れを覚えながら、私は決める。
……後で謝罪することを覚悟で、公爵閣下の名前を出そうと。
「ぶっ!」
私の背後、何かがマイルズの顔に投げられたのはその時だった。
何が起きたのか、そう背後を見た私の目に映ったのは私の契約結婚相手の夫アイフォード。
「騎士団長に任命されると、国王陛下からある権利を授与される」
──その、能面のように感情のない顔だった。
ゆっくりとアイフォードが立ち上がる。
それだけで、部屋の中の空気が変わった。
肌がぴりぴりとするような威圧感が部屋を支配する。
「それは名誉を汚そうとする相手に決闘を挑む権利だ」
「ひっ」
マイルズが押し殺した悲鳴を上げる。
その時になって、マイルズの顔に張り付いたものが何か私は理解した。
「これ以上妻を不当に貶めるなら、それを受け取れ。そうすればじっくり聞いてやろう」
──すなわち、アイフォードの白い手袋だと。
「交わすのは言葉ではなく、剣だがな」




