第十五話 やり返し
マイルズの表情が一気に青ざめたのはその瞬間だった。
「こ、これはあくまで緊張を解こうとした故の冗談で……」
「あら、そうだったの」
あえて私は、そこでにっこりと笑ってみせる。
そこで一瞬マイルズの表情に希望が浮かんだのを見て、私は告げた。
「私は冗談など抜きで、貴方がアイフォードの親族を名乗る資格なんてないと思うのだけど?」
「……っ!」
その瞬間、言葉を失ったマイルズに私は笑顔で問いかける。
「ねえ、聞かせてくれないかしら?」
「な、なにをですか?」
「勘当した人間の夫にたかりに来る人間の心理について、よ」
瞬間、マイルズの顔が赤くなる。
そして、私を睨みつけ叫ぶ。
「たかるなど、そんな気など……!」
「侯爵家であれだけ金の無心をしておいて、よくそんな口を聞けるわね?」
だが、威勢の良さが続いたのは一瞬だった。
私がちくりと一言告げると、それだけでマイルズはだまり込む。
その表情を見ながら、私は内心ため息をもらしそうになる。
本当に学ばない人間だと。
こうしてマイルズが怒りを露わにするのは、伯爵家にいた頃の常套手段だった。
まだ男性に怒鳴られるのになれていなかった私はそれで萎縮し、なにも言えなくなっていたのだ。
けれど、それももう遙か昔。
今は、そんな程度で言葉に詰まることはない。
そのことは侯爵家でのやりとりで散々理解しているはずだろうに、未だマイルズは馬鹿の一つ覚えのように繰り返す。
まあ、今日くらいは今までの分を返させてもらおう。
そう判断し、私はあえて表情を消して口を開く。
「何度も何度も、何度も。常識に欠けるお金の無心をした挙げ句、それを断った私を勘当し」
「そ、それは誤解……」
「さらには、この屋敷に転がり込んできた挙げ句、夫の前で私の侮辱」
完全に黙り込んだマイルズに、私はほほえみを浮かべ問いかける。
「ねえ、今度はどんな手段を使って私を怒らせてくれるの?」
……完全にマイルズの顔から血の気が引いたのは、その瞬間だった。
自分がやってきたことを返されていると気づく余裕もなく、ただ視線を泳がす。
その様子に気持ちは冷静そのもの私は、内心苦笑する。
本当にかつての私は、なにをそこまでおそれていたのだろうかと。
「事情を知らぬ人間が口を挟むのも申し訳ないが」
アイフォードが口を開いたのはその瞬間だった。
私は何事もないように振り向きながら、内心疑問を抱く。
私とアイフォードは話しあって、今回に関しての筋書きに関してはほとんど決めていた。
その中に、ここでアイフォードが何かをいうようなことはなかったはずだが、どうしたのだろうか。
そんな私の疑問を余所に、アイフォードは口を開く。
「一応の生家であっても、私の妻を悪く言うのは今後やめていただきたい」




