第十三話 どうしようもない勘違い
「是非是非!」
アイフォードの言葉に対し、マイルズは反論するどころか顔を輝かせて頷いた。
「では」
その様子に疑問を抱きつつも、私とアイフォードはマイルズを先導して歩き出す。
いつもとは違う客室に向かいながら、私は何度か背後のマイルズに目をやる。
その様子は私の記憶にある姿と一切変わらないように見える。
しかし、もしかしたら何か考えを変えるようなことでもあったりしたのだろうか?
そう内心の不安が煽られる私に対し、マイルズは機嫌の良さそうな表情を浮かべ口を開く。
「それにしても、アイフォード様も隅に置けませんな」
「……はぁ」
「いえいえ、決して隠すような必要はありません! 私も男の一人、アイフォード様の気持ちは痛いほどよく理解できておりますから」
そう喜々として語るマイルズの様子に、私もアイフォードも疑問を隠せない。
しかしそんな私達の様子に気づくこともなく、マイルズはアイフォードの耳に口を寄せて告げる。
「で、隣の女性は一体誰なのですか?」
その言葉を聞き、ようやく私は理解することになった。
嫌に不自然なマイルズの態度の理由。
……それは私が別人だと勘違いそているが故のものであったのだと。
「っ!」
そのことに気づいた瞬間、私は咄嗟に自分の口元を手で覆って隠していた。
思わず弧を描いてしまった口元を隠すために。
確かに、マイルズと会っていた侯爵家夫人であった時とは、私の姿はかなり違うだろう。
きちんと化粧を施し、私に合うドレスも身にまとい、きちんとした姿をしている。
しかし、髪型まで変えた訳ではないのだ。
この程度の変化で見落とすなど。
そう内心笑いながら、私は乾いた目でどうするかとこちらを見てきたアイフォードに小さく頷く。
このまま勘違いさせておいて、と。
せっかく相手がこんなぼろを出してくれたのだ。
私の招待を明かすのは、逃げ場のない場所に追い込んでからでいい。
そう理解しているのだろう。
少し不機嫌そうな表情で、それでもアイフォードも頷く。
しかし、当のマイルズだけはアイフォードのわずかに不機嫌そうな表情を含め、なににも気づいていなかった。
笑顔で、さらにマイルズは口を開く。
「まあ、マーシェルお嬢様は女としての最底辺ですから。他の女性が気になるのも当然の話ですよ」
……自分がどれだけ大きな墓穴を掘っているのか知る由もなく。
 




