第十一話 不信感 (クリス視点)
執事の言葉に気をよくし、それからも仕事を続けていた私だが、その優越感を燃料として動けたのは、それから一ヶ月の間だけだった。
「……どういうことだこれは」
そうつぶやく私の前にあったのは、一ヶ月前より増えた書類の山だった。
そう、一ヶ月前から私が必死に仕事を行ってきたにも関わらず、仕事は減るどころか増えていたのだ。
もちろん私も対策としていろいろな手を打った。
執事に訊き、さぼっていると思わしき使用人達を叱りつけ、仕事を押しつけ、または使えない使用人をクビにして新しい使用人を入れたりもした。
にも関わらず、相変わらず減る気配のない書類に私はさすがに異常を感じずにはいられなかった。
どういうことかと、私はいつもの執事に尋ねようとして。
……その執事の姿がないことに気づき、舌打ちを漏らした。
「くそ、ネルヴァはどこに行きよった……!」
ネルヴァはマーシェルの不手際について私に教えてくれた執事だった。
今は家宰のコルクスがいないこともあり、実質侯爵家をまとめる役目も担っている。
当初、私を全面的に尊敬しており、侯爵家内部のあれこれを教えてくれたそのネルヴァを、私は役に立つと思っていた。
……しかし、その考えも最近は揺らぎつつあった。
その理由は、減ることのない書類だけではない。
最近、ネルヴァがどこにいるのか分からない時が続くことにあったのだ。
それも、こんな忙しい時にだ。
そこまで考え、ふと私は思いいたる。
そういえば、最近妻であるウルガもどこか様子がおかしいことを。
そこまで考え、私は余計な考えは今は必要ないと頭から振り払った。
とにかく今は、目の前のこの書類の異常を探ることが最優先なのだから。
そう考えた私の目に入ってきたのは、侯爵家にいるもう一人の執事だった。
黙々と仕事を処理していくその姿からは、陰気な雰囲気さえ感じられ、私は思わず顔をしかめる。
この男には以前ネルヴァがさぼっていると仕事を増やしていたのを見たが、その時でさえこの淡々とした様子を崩すことはなかった。
その様子を見てから私はこの執事に対してコルクスと似た苦手意識を持っていた。
だから、普段であれば私はこの男に声をかけることをしなかっただろう。
けれど今、私はネルヴァに対して不信感を抱いていて、それが私の背を押した。
「おい、お前。この書類の量はどうなっている?」
……その私の声に反応し、顔をあげた執事の顔に浮かんでいたのは、隠す気のない侮蔑だった。
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