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第八話 偽りの結果

「……っ!」


 その私の行動に、アイフォードがかすかに顔を赤めて反応する。

 しかし、私は自身も顔が赤いことを理解しながら、腕を放すことはなかった。

 ただ無言で私はアイフォードを見つめる。


 最低限の人間にしか契約結婚は明かさない、コルクスには隠すと決めたでしょう、と。


 実は事前の話合いで私たちはそのことを決めていた。

 何せ、コルクスが隠し事に向いた性格ではないのは分かり切っていたのだから。

 コルクスは口は堅く言わないと決めたことは頑として言わないが、機転を利かして物事を隠すタイプではない。


 それに、クリスとのことがあった直後なのだ。

 かなり心配性であるコルクスは契約結婚に反対する可能性もある。

 それ故に私たちは事前に決めていたのだ。


「……聞いてはいましたが、本当にご結婚されていたんですね。遅れましたが結婚おめでとうございます」


「あ、ああ。ありがとう」


「コルクスにそう言って貰えると嬉しいわ!」


 そんな私達に対し、コルクスは驚きを隠せない様子でそう告げる。

 その様子からは一切疑う色はなくて、私達は内心安堵の息をもらす。

 もちろん、疑わしいことを感じていない訳ではないだろう。

 けれど、一度信頼した身内に関してはそれを余所において信じるのが、コルクスという人間であることを私達は知っていた。


 ……まあ、そのことを知る前までは先代侯爵家当主を敬う姿勢を崩さないコルクスを警戒していたこともあったのだが。


 そんなことを考え、それを私はすぐに自分の頭から振り払った。

 今はそんなことより、この状況を最大限利用するために動くべきだと。

 これで私達は、コルクスの前で本物夫婦として振る舞わなければならない状況になった。

 それは今の私にとって、喉から手がでるほどに欲しかった、アイフォードにアタックする為の大義名分だ。

 これなら私でも。


「それにしても、こうも予想を裏切られるとは私も衰えましたな」


 ……コルクスが口を開いたのはそんなことを考えていた時だった。

 にこやかな様子で、冗談をいうようにコルクスは続ける。


「お二人が恋仲であっても、こんなにすんなり行くとは思っていませんでした」


「そ、そうか?」


「ええ。アイフォード様は謎の理由でごね続け、マーシェル様は照れによって、亀のようにしか距離を詰められないかと」


 ぴしり、と私とアイフォードの笑顔が凍りついたのはその瞬間だった。

 そんな私に気づかぬまま、機嫌の良さげな様子でコルクスは続ける。


「まあ、実際は私の衰えた思考力をお見せすることになったのですがね。クリス様のそばにいたからか、私は人を過小評価するようになってしまって。……この短期間に成長されましたな、お二人とも」


 そう嬉しそうに笑うコルクスの顔には一切の他意は存在しなかった。

 それ故に私はそれが正当な評価とも言えずに、ひきつった顔でなんとか笑顔を浮かべる。


 ……こんなことなら、迂闊にコルクスを騙そうとするべきではなかったかもしれない。


 そんな今更過ぎる後悔だけを胸に、私とアイフォードは虚ろな目で笑い合う。

 コルクスが突然その顔を曇らせたのはそんな時だった。


「……こんな祝いの席に持って来てよいお話か悩んだのですが、少しお耳に入れたいことが」


 ぴしり、そんな音が聞こえるほどにアイフォードの雰囲気が変化したのはその言葉を聞いた瞬間だった。

 そんなアイフォードの視線をまっすぐに受け止め、コルクスが口を開く。


「伯爵家……マーシェル様の実家が再婚について聞きつけたようです」

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