第六話 先読みできる展開 (アイフォード視点)
「……まあ、だからこそこれ以上面倒ごとが起きないように意識しないとな」
そう呟いた瞬間、今までの浮かれた雰囲気は俺の中から消えていた。
その目に浮かぶのは、準男爵とはいえ家を背負うものの顔。
俺は騎士団長として正式に任じられ、今後はクリスがきても簡単に追い返せるだけの力を得た。
しかし、一切の問題が起きないというには、騎士団長という身分は大きすぎた。
これから先、騎士団長である俺とつながりを作ろうとする貴族は多く現れるだろう。
そして、その一つ一つに俺は細心の注意を払って対処していかねばならない。
その為には問題が起きるだろうという先読みが何より大切で。
一つ、俺には何かが起きているのではないかという心当たりが存在した。
「……明日のコルクスについては、覚悟を決めておいた方が良さそうだな」
そう、その存在こそコルクスの存在そのものだった。
もちろん、コルクスが何かすり寄ろうとしているのではないかと考えている訳ではない。
ただ、コルクスの襲来には違和感を感じずにはいられないことが存在していた。
というのも、コルクスは本来もっと早くこの屋敷にくるはず立ったのだから。
しかし、それをコルクスから一方的な連絡と共に長引かして欲しいという連絡があったのだ。
非礼をわびるその手紙を見ながら、俺は不信感を感じずにはいられなかった。
本来、こんな風にコルクスがこちらの予定を否定することは滅多にない。
だとしたら、コルクスがこんな行動をとる理由となった滅多にない事態とは一体なにがあったのか。
そして、その理由に関して俺には思い当たる理由が存在した。
「できれば外れて欲しいんだが……」
そう言いながらも、俺は半ばそれが希望的な観測であることに気づいていた。
一度ため息をもらした後、俺は立ち上がって様々な書類を整理し始める。
ある程度想定できている以上、黙って待っているつもりなど俺には存在しなかった。
何せ、ようやくマーシェルが手にした平穏なのだ。
なんとしても俺は守る義務がある。
「……今度こそ、自己犠牲など許すものか」
それが、コルクスの来る前日のことだった。




