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第五話 強敵顕現 (アイフォード視点)

「……ああくそ、卑怯だろうが」


 俺、アイフォードの口からそんな言葉が漏れたのは、マーシェルの部屋から自室に戻ってきてからだった。

 未だわずかに赤みの残る顔にふれながら、俺は恨めしげに呟く。


「メイリのやつ、的確に俺の痛いところをつきやがって」


 先ほどのマーシェルの姿、それはもう俺の脳裏に刻み込まれていた。

 上気した表情で、淡い色のドレスに身を包んだマーシェル。

 いつもより、少しだけ肌が多めに見えるそのドレスはマーシェルの白い肌によく似合っていて。


 ……何より、恥じらうその姿があまりにも可愛らしく、俺も平静ではいられなかった。


 どれだけ考えないようにしても思い描いてしまうその姿を振り払おうと、俺は頭を振る。


「……くそ、勘違いするなよ」


 そう自分に言い聞かせる俺の口元には、自嘲の笑みが浮かんでいた。


「あれがマーシェルの本心ではないことには気づいているよな、俺?」


 そう、実のところ俺は最近マーシェルが自分に好意をほのめかすような好意を取っていることに気づいていた。

 いや、気になる人がアピールしてきているのだ。

 分からない訳がなかった。


 ……しかし、それを理解してもなお俺は、マーシェルの気持ちに答えるつもりなどありはしなかった。


 マーシェルを縛りに縛って、俺は今の状況を作り上げた。

 そして、マーシェルは縛られたら縛られるほど、縛った相手に依存することを俺は知っていた。

 その相手が自分を求めることでしか、自分の価値を計れなくなることを。


 だが、そんな価値の求め方は俺が望むマーシェルの未来ではなかった。


 俺が望んでいるのは、マーシェルが心から幸せを感じることだ。

 それは依存のような不健全な自己満足ではなく、しっかりと満ち足りた幸せ。

 だから俺は、必死に鋼の自制心を発揮して、今までマーシェルのアピールを流し続けてきた。


「だが、メイリが相手となれば今までのようにはいかないか」


 マーシェルのように、中途半端に恥ずかしくなってグダグダになる愚をメイリは犯さないだろう。

 それは先ほど見た、マーシェルのドレスからも明らかだ。

 あれほど、マーシェルという素材を完璧に活かしたドレスを選ぶ……とそこまで考えて俺はそれた思考に気づく。


「くそ! 我ながら単純すぎて嫌になる……」


 この先、どれだけ自分の自制心が持つか。

 そう考えて、俺は額を手で覆う。


「……まあしかし、マーシェルが楽しそうなのは事実だよな」


 そういいながら、俺の頭に浮かんだのは最近見るマーシェルの笑顔だった。

 最近のマーシェルは俺の願望が見せた幻覚などではなく、本当に楽しそうに笑うようになっていた。

 俺はマーシェルをここに引き留める為に、手段を選ばなかったし、それが許されることだとは思っていない。


 ……ただ俺も、少しくらいはマーシェルの支えになっていたりするのだろうか。


 そう考える俺の口元には、小さく笑みが浮かんでいた。

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