表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/10

仲間たちは詮索する

「ハァイ、アリー♪今日はお招きありがとう!」

「ハル、レイ。いらっしゃい!今日はのんびり寛いでくれ」

「……………………………。」


 アハルティカとレイバンは、結婚式後初めてマーナガラム家の新居へお呼ばれ(『押し掛け』とも言う)していた。


 歓迎してくれるアリアナとは対照的に、ヴォルフは渋々である。2人だけの愛の巣に、他人を踏み込ませるのが相当に嫌らしい。「…お前ら、新婚夫婦に気が遣えないのか」と言わんばかりのジト目でこちらを睨んでくる…。

 が、アハルティカはそれをサラッと無視した。レイバンも同様である。


「こちら、引っ越し祝いです。どうか受け取って下さい」

「わあっ!良いの?わざわざありがとう……って。

…こ、こんなに沢山??」


 サッ!と背後から出された箱の山に、アリアナが目を丸くしている。アハルティカは得意気に、レイバンは少し申し訳無さそうに、それぞれ笑った。


「本当はもっと早く渡すべきだったんですが……少し遅くなってしまったでしょう?なのでその分、上乗せしておきました」

「私たち2人でね?張り切って選んだのよ!

こっちは食器、こっちはスリッパ!で、こっちは育てやすい観葉植物…小さくて可愛いの!……で、これは入浴剤でしょ~?」


 「あとはね~…」と畳み掛けると、ヴォルフがついに観念した。


「…分かった!!分かったから………はあ、


……………もう早く入れ……」


「「お邪魔しま~す!」」


「……いやマジで。ほんっとに『邪魔』なんだからな…?お前ら、自覚しろよ…?」


 と、すれ違いざまにヴォルフが低く唸る。それを聞きつけたアリアナが「ヴォルフ!折角お祝いに来てくれたのに、なんて言い方するんだ!」と窘めてくれていた。




◇◇◇




 ───ペラ、ペラ……、


 と通されたリビングで捲っているのは、アルバムである。アハルティカはそこに挟んである写真を、1枚1枚指でなぞりながら楽しく眺めていた。それを、レイバンとアリアナも覗き込んでいる。

 写し込まれているのは、異国の風景。


「あらっ…!この写真……」

「ん?……おぉー…!」


 アハルティカとレイバンは、揃って声を上げた。


 見ていたのは、夕日の沈む海で撮られたヴォルフの写真。険の無い顔つきで、少年のようにニカっ!と笑っている。


「すっごく良いじゃない!あなた、カメラ上手ね。写真家になれるわよ、アリー!」


 アハルティカは、手放しでその出来映えを褒め称えた。すると、アリアナが照れたように笑う。


「そんな……、たまたまさ。写真を撮ること自体、それが初めてだったんだから…。


私が凄いんじゃなくて──きっと、被写体が良いんだね」


 そう言って、アリアナが小さくはにかむ。


「………」


(──…やだ。可愛い)


 と、アハルティカの胸はうずうずした。


(謙遜しているけれど、褒められるのは嬉しいみたい。……それは、写っている相手がヴォルフだから???)


「…いーえ!カメラマンが良いのよ。だってヴォルフのこんな良い表情(かお)、今まで誰も撮れなかったんだから。ねー?レイバン?」

「ええ。その通りですよ、アリー。これは自信を持って良い特技だ」


 そう言ってレイバンと一緒に賛辞を送ると、アリアナは今度こそ「…嬉しい。ありがとう」と言って笑ってくれた。




「…あ。ねぇ、アリー?」

「??なあに?ハル」

「…なんか、いい匂いしない??」

「…本当だ」

「…あっ!」


 アハルティカとレイバンが、食べ物の匂いを感じ取って訊ねると、アリアナが「いけない!」と慌て始めた。


「そうだった、スコーンが…!!

…ちょっとそれ見て待っててくれ!すぐ戻る!」


 そう言って、アリアナが軽やかにリビングを出ていく。…どうやら来客である自分達のために、予めおやつを焼いてくれていたらしい。


「…………今のうちに…」

「ん??おい、アハルティカ何を……」


 取り残されたアハルティカは、1枚の写真に手を掛けた。レイバンが聞いてくるので、悪戯っぽく笑う。


「この写真だけ2枚分の厚みがある……触った感じで分かるわ」

「………確かアリーは、『アルバムを作ったのはヴォルフだ』って言ってたっけか……」


 さっきまで、アリアナは楽しげに写真の説明をしてくれていた。にも関わらず、これについてはノータッチだった、ということはつまり……。


 アリアナにさえ、知らせることが無かったヴォルフの『秘密』が──今、ここに収まっているのだ。


「…気になる?」

「気になる。」

「そう来なくちゃ!」


 迷わず秘密の暴露を選択した共犯者に、アハルティカは笑う。


 ───カサ、


 と満を持して、挟み込まれた写真を丁重に抜き取ると。


 その何気ない風景写真の下から出てきたのは……肩から上の、眠るアリアナが写った写真だった。



「「………………………」」



 シーツの海に横たわっている、アリアナ。


 力の抜けた顔は幼子のようだ。額にはおそらく汗で湿ったと思われる髪が、ぺたりと張り付いていた。…その僅かに上気した頬に、誰かの指先が優しく添わされている─────多分、ヴォルフの左手だ。



「「………………………」」



(──…なぜアリーに黙っていたのか分かった。…だって、これってどう見ても事後の………)



「おい。」


「「!!!!」」



 突然声を掛けられて、2人はビクン!と肩を跳ねさせた。



 ────ヴォルフだ。


 封を開けた引っ越し祝いの品達を、早速各所へ配置しに行っていたヴォルフが…………今、リビングの入口にいる。



「……………それ。………何見てる?」

「……アルバムだよ。お前達が行った新婚旅行の時の。

アリーが見るのを勧めてくれたんだ。いやぁ良い写真ばかりだなあ」



 入り口側の席に腰かけていたレイバンが、大きな体をヴォルフに向けるようにして捻る。そうやって、隣に座るアハルティカの手元を、自然に隠してくれた。


 その隙に急いで──かつ慎重に、写真を元通り差し直す。


「…ね。楽しそうで羨ましくなっちゃった。

あんたも見る?」

「……………、」


 トン、トン、と狼の足音が近づいて来るけれど、動揺を見せてはならない。


「…………………」


「「……………」」


 目の前に来たヴォルフが、手元のアルバムに目線を落とした。


(──ば、バレてないわよね……??)


「「……………」」


「……いや。俺は良い」


 ───「散々見た」。


 …そう言って、ヴォルフがアルバムを取り上げた。



 ────パタン。



 とそれが閉じられる。



「お茶。準備が出来たってよ」


「「ワーイ、ヤッター!」」



 アハルティカとレイバンは、すっくと立ち上がり、いそいそと部屋を出ようとした。──その時。



「あまり、詮索はするなよ?」


「「……!」」



 振り返ると、アルバムを手にしたヴォルフが歯を見せていた。


 笑っているのか、こちらに牙を剥いているのかは定かではない。

 ……と言うか、それを明らかにする度胸が自分達にはなかった。


 ヴォルフが『自分しか見ることが出来ない』と悦に入っていた獲物の顔。それを、自分達がほんの僅かでも垣間見てしまった、だなんて知られた日には………



 とても命の保障は出来かねる。



 …そう判断したためだった。





この後、ヴォルフによって写真は泣く泣く抹消されました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ