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3. 仏眼院に行こう

 桑名市は名古屋駅から近鉄の快速でおよそ30分で着いた。

「簡素な作りね」

 マリアが周囲を見渡してそういった。

「地方の駅なんていうのはそんなものだ。名古屋駅みたいな大きな駅を期待してたか?」

「違うわよ。ただ、地方と都市部の落差が激しいなあ、と思ったのよ。率、私はAI搭載なのよ? 名古屋と桑名は県も違うことくらいわかるわよ」

 率は何か言いたそうに、ジトとマリアを見たが、マリアの誇らしげな表情に反論する気が失せていた。


(微妙にかみ合わない……)


 率がそんなことを腹の中に抱えていると、眼下には階段が広がっていた。桑名駅にはエレベーターがなく、淳太郎が荷物をせっせと持ち上げて階段を降りようとしていた。

 率は淳太郎の荷物を取り上げると、さっそうと階段を下りていく。

 何も言わずに階段を下り切るつもりだった。だが、この荷物……めちゃくちゃ重い。

「おい! マリア、なんでこんなに重いんだよ! お前アンドロイドなんだから、いろいろ持ってい来る必要ないだろ」

 マリアは率より3歩ほど後ろを歩きながら「私は服しか持ってきていないわよ。それも1着だけね」と反論し「それより、率こそなんかいらないもの持ってきているんじゃないの? どうせ服とか、化粧品とか、サングラスとか持ってきているんでしょ」

「持ってくるかよ。お前こそ、ヘアドライヤーや靴とか入っているんだろ?」

 率は階段を下り終え、マリアの顔をみて反反論をする。

 二人の一触即発の雰囲気を背中に汗をかきながら、恐る恐る手を挙げる淳太郎に二人は視線を奪われた。

「僕の荷物です」

「は?」

 マリアと率の声が重なった。二人とも先ほどの険悪な雰囲気を打ち砕くほど、息がぴったり合っていた。


「枕が変わると眠れなくなるタイプで、枕と、たくさん歩くだろうから、替えの靴、汗をかいた時の着替えの服3着、それから化粧水、日焼け止め、鍛えるダンベル、あと、先ほどお店で買った持ち帰り用のひつまぶし、駅で買った味噌煮込みうどんです」

 率とマリアがイラっとしたのか、何も言わずにてくてく歩いていく。淳太郎は置き去りにされた荷物をガラガラ引きながらこの不機嫌そうに前を歩く美男美女の付き人のようについていく。

「淳太郎、クライアントはいるのか」

「え? あ……あー……はい……」

 淳太郎はクライアントを見ると、確かについてきているが、先ほどよりも彼女の顔色が悪そうだった。なぜ顔色が悪いのはわからない。

「なんだよ、歯切れわるいなあ」

「クライアントの様子が……って、もう、タクシーのっているじゃないですか!」

 二人はすでにタクシーに乗り込んでいた。

 クライアントを見ると、真っ青な顔で自分のことは気にするな、というので、淳太郎はそれでいいのかもやもやするが、わかりましたと応え、タクシーに近づく。


 淳太郎はタクシーの運転手に頭をさげ、車のトランクに荷物を詰め込んだ。後部座席に座ろうとしたが、既に美男美女が座っているので、淳太郎は助手席に腰を下ろした。

「マリア、仏眼院という海沿いの寺院でいいんだよな?」

 率に言われて、マリアがコクリ、と首を縦に振る。

「仏眼院は村正の菩提寺だったみたいね。今は焼失していて、平成元年に復元しているけれど、淳太郎とクライアントなら何かつかめるかもね」

 窓から差し込太陽の光がまぶしく、淳太郎は目を細めながら「仏眼院までお願いします」と運転手に伝えた。


 潮の香りがして、外を見ると海が広がっていた。

「桑名は蛤が有名よね。食べたいわね」

 マリアの言葉に淳太郎は頭を掻きながら「食べるのが好きなんですね」と言った。

「そこがマリアの利点だ。出先に行ったら、うまい店を見つける。Shiriのようで便利だろ?」

 率がサングラスを指でくいっと、上げながらそういった。

「それ、スマホがあればいいわよね」

「ばれたか」


 タクシーで20分ほど走ると、小さな社の前に停車した。

 平成に建築された建物のようにどことなく近代の風情を残している社だった。

 淳太郎がクライアントのそばに行くと、クライアントの姿はなくなっていたが、今までも時々、消失したり、現れたりするので、再び現れるだろうと思い、マリアと率には伝えなかった。

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