依頼42『ノリアの走馬灯③』
私はお母さんを見つけて心から嬉しかった。
どんなに落ちぶれていても、どんなに荒んでいても私はとても嬉しかった。
だから私はお母さんに話をして一緒に住もうと話そうと感じた。
今の状態を伝えればお母さんもお父さんも絶対に今の私達の生活を聞けば一緒に暮らすって言ってくれる! だってこんなに苦しそうなのに私達の生活に魅力を感じないわけがない!
お金もある、仕事も出来た、もう窃盗をする必要もない、そんな状況でお母さんとお父さんがまた仕事を出来るようにサポートすればきっと! きっと!
そう考えた私はお仕事を終えたお母さんの目の前に姿を出した。
「あんた……何をしてんのさ」
とそっぽを向いてお母さんは私に話し掛けた。
きっとお母さんは私とナリア姉を奴隷商人に売ったことを気にしてるに違いない。
それが枷になって私をちゃんと見ることが出来ない。
そして、私は
「お母さん! 私! ナリア姉と一緒に暮らしてるんだ! 奴隷商人から商品を奪って何とか今は生活が出来ているんだよ! ここまで来るのは大変だったけどきっとお母さんに会えると思ってお母さんと話せると! お父さんと会えて話せると思って! 今はナリア姉と一緒に仕事をして何とか食べれるようになったんだ! だからお母さんとお父さんを迎えに来たよ」
「……ふーん」
何で……何で見てくれないの
そっぽを向いたままじゃない
どうして私を見てくれないんだろう
どうしてそんなに素っ気ないんだろう
おかしい
いつもなら優しい笑顔で私を見てくれる。
いつもなら私に優しい言葉を掛けてくれる。
いつもなら私の頭を撫でてくれる。
それなのにどうしてだろう。
お母さんは私を見てくれていない。
それどころか私を蔑視の目で見て
私を拒絶しているように見える。
おかしいおかしいおかしい
「お母さん! だからもう娼婦何てしなくて良いの! 私とナリア姉が一緒に暮らせばお母さんもお父さんも楽が出来るよ! 親孝行をしたいんだ! 最後はあんな形だったけど本当は違うんでしょ! お母さんとお父さんは優しいもん! それなのにあんな形になったは全部お父さんの仕事を否定する奴等のせいだもん! だからお母さんもお父さんも何も悪く……」
「黙れ!」
「え……」
お母さん……何で私をそんな目で睨み着けるの?
「お前! 私を哀れんでいるのか! これだったらあの時の事を恨まれていた方がマシだ! ふざけるな! 何が私達はもううまく言ってるだと! 上手くいかない私を見て馬鹿にしてるんだろ! 今の私を見て嘲笑ってるんだ! 見下しているんだ!」
「そ! そんなことないよ! 私はお母さんとお父さんと一緒に暮らしたいだけなんだ! なんでそんな言い方するの!」
「嘘だ! 嘘を吐くな! そうやって甘い言葉を言っているように見せかけているだけだ! お前は見下している! この私を! 自分をちゃんと育てなかったから私を恨んでいる事を見せてないだけだ! 本当は私を恨んで見下す為だけにここに来たんだ! 私と暮らして働いている仕事を見下してゴミみたいな人間だと思ってるんだ! 汚い汚らわしい人間だと思ってるんだ! 娼婦を辞めろだと! 私がどれだけ苦労してここまで成り上ったと思ってる! 見下しているからそんなことを言えるんだ! 私を見下してるんだから!」
「違うよ……お母さんが苦しそうだから……」
「苦しいからってなんだ! 私にはもうこれしかないんだから!」
「お……お母さん」
お母さんは私に怒りを向けている。
お母さんは私を怒ってる。
私を憎んでる。
どうして
「もう帰れ! どっかえ行ってしまえ! お前なんてもう見たくない! 産まなきゃよかった! 私は私の人生を送る! お前等の呪縛何てもう考えたくもない! お前等と一緒に暮らしたくない! お前等と私はもう関係ないんだ!」
「何で……」
何でそんなことを言うの
何でそんな事が言えるの
何でそんな悲しい事を願うの
何で一緒に暮らしたくないの
そんなのおかしい
おかしい
おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい
どうすれば一緒に暮らせる? どうすれば一緒に居られる? どうすれば家族は戻れる?
その時私の頭にお母様の言葉が浮かんだ。
『いい? 好き嫌いしちゃだめよ? 貴方が食べている食べ物さん達は貴方の体を作るんだから……人間はそうやって食べたものと貴方は一緒に生きていくんだから』
という言葉を
そうか……食べれば一緒に暮らせるんだ……食べれば一緒に生きていけるんだ……食べればずっと……ずっと一緒に……
「お母さん……やっぱり家族はバラバラになったらだめだよ」
「あああ! ふざけるな! 関わらないでって言ったでしょ! 家族はもう戻らないんだよ!」
「大丈夫、昔お母さんが言ってた事をすれば戻るよ……家族はまた一緒だよ」
「は?」
私は涎を流しながら
「お母さん、食べれば私の一部になるんだよね? 食べ物は私の体を作るだよね? じゃあ私がお母さんを食べれば……お母さんは私と一緒に暮らせるって……ことだよね?」
「はあ……何言って……」
お母さんは震えている。
小動物の様に
でも大丈夫、
すぐに終わるから
「イタダキマス」
「は……嘘よね……止めて……止めてってばあ……」
「あああああああ」
私は口を大きく開けてお母さんに近づく。
「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
お母さんは悲鳴を上げていた。
私は
グシャ! グシャ!!
お母さんが飛び散った。