依頼41『ノリアの走馬灯②』
お父様が苦しそうにしながらいつも寝ていた。
いや、眠ってはいなかった。
苦しそうに唸るだけ。
私はお父様が心配になった。
そんな時
「大丈夫、ノリア、お父様なら大丈夫よ」
そう言っていつも私を眠らせてくれるのはナリア姉様だ。
ナリア姉様の言葉はいつも私に安心をくれた。
私はその言葉を聞いていつも安心して眠ることが出来た。
お母様はいつも笑顔を絶やさなかった。
悩んではいたんだろうけど笑顔だけは私達に見せてくれるとても強いお母様
私はとても誇らしく思った。
そして、遂にお父様は仕事を追われてしまった。
私は悲しくて悲しくてたまらなかった。
近所の皆からお前なんて勇者の仲間になれるわけがない、この屑野郎
そんな悪口を言われてとても悲しかった。
勇者の役に立つことはお父様が望んでいた事なのに
ナリア姉様と一緒に頑張れる私の将来だったはずなのに
それがお父様の誇りある仕事を悪く言われて私はとてもみんなが馬鹿だと思った。
みんなみんな私の大切な家族を悪く言わないでと本当に思い続けた。
それなのにそれなのにそれなのに……
そして、私とナリア姉様とお母様とお父様は住んでいたとてもとても大切な家に住めなくなった。
そんなのおかしい
私の大切な家庭が潰されてしまった。
そんなのおかしい
だけどお父様は私達とずっと一緒にいると言ってくれた。
お母様は私達をきっちり育てると言ってくれた。
私もナリア姉様もとても喜んだ。
きっと私もナリア姉様もお母様やお父様へ親孝行できるように
きっと勇者様の役に立って
そして、この世界を守ればお父様の仕事の大切さも
私達の言ったことも全部本当の事になる。
私はそう確信していた。
そう信じて止まなかった。
そして、私達は街を出て別の街で家を建てて暮らすことになった。
お父様は新しい仕事を探しに気合が入っていた。
お母様もお金の遣り繰りを頑張っていた。
私とナリア姉様もお勉強を頑張り続けた。
魔術は複雑で魔力があっても封印や罠や武器の魔法付与などの様々な面で役に立つが
その為の魔法の発言条件や魔術の術式を組み込むのは勉強だけでは発動させることは難しい。
魔法を使う事は簡単だが魔術は難しい。
なので魔術はそれなりの名門の学校へ入って勉強しないとダメだがその学校に入るのも難しい。
なので私とナリア姉様はその学校に入る為の勉強を頑張った。
だけど……だけど……
お父様は一カ月以上も仕事が決まらず酒浸りになった。
その為、お母様が何とかお金を稼ぐ術を探していた。
そして、いつの間にかお母様が仕事をしてお父様が酒浸りになった。
家事はナリア姉様と私で行っていた。
お母様はドンドンとやさぐれていった。
お父様はプライドがドンドンと削れていった。
私はお母様が本当に疲れていると思い無理しないでとお母様を思って言ったのに
「うるさいなあ! あんた達の為でしょうがあ!!!」
と怒られてしまう。
お父様に頑張って欲しくて声援を送っても
「うるせええ! おめえに何が分かる!」
と怒られてしまう。
ナリア姉様は泣いている私を撫でて慰めてくれる。
ナリア姉様は私をいつも助けてくれる。
お父様もお母様もそうだったはず
そうだったはずなんだ
そして、きっと二人は戻ってくれる。
そう信じて私とナリア姉様は二人をそっとしておいた。
きっと戻ってくれる。
元の生活へと戻れる。
そう信じて
だけど、その夢は叶わなかった。
どうして叶えてくれなかったの。
そんな苦しみに捕らわれながら奴隷商人に捕らわれた。
私は諦めない。
もちろんナリア姉も諦めない。
ナリア姉はいつも言ってた。
諦めなければきっと夢は叶う。
きっと思い通りになる。
きっと認めさせられる。
だから私はナリア姉と奴隷商人を殺した。
負け組を売り捌いた。
追ってくる馬鹿の大切な者を踏み躙った。
とてもとても良いことだ
だって私達は幸せになる為に頑張ってるんだから
皆が、他の皆がお父様を馬鹿にして幸せになったように
私達の幸せを潰して幸せになったように
私は相手の夢や幸せを潰してナリア姉とそして、お父さんとお母さんとまた家族になって幸せになるんだ。
そして、負け組を売り捌いた金で家を建てて今度は私とナリア姉はバイトをした。
時折ナリア姉と一緒に盗みを働いてお金を蓄えた。
そして、ある夜にナリア姉は言った。
「これだけあれば当分遊んで暮らせるぞ!」
「本当に! 何人分が楽しく暮らせるの!」
「そうだなあ、二人ぐらいじゃないか? 私とノリアを合わせて四人ぐらいでは暮らせるはずだが?」
ナリア姉はもう両親の事は諦めているようだったけど、私は諦めてない。
お父さんとお母さんを連れてきてナリア姉と一緒にまた笑い合って暮らすんだ。
笑い合って幸せになるんだ。
ともにまた魔術を勉強するんだ。
そして、今度こそは……
私は朝早く起きてお父さんとお母さんが住んでいる国に戻った。
お母さんは娼婦になっていた。
仕事の邪魔をしたくないから仕事が終わりまで待ったんだ。
そして、着膨れたオッサンにキスをしているお母さんを見つけた。
あああ!! お母さん! 私だよ!
そう言って抱き着きたかった。