依頼38『ノリアの作戦』
ノリアの飲み込んだ武器の残りは少ない。
ノリア自身秘策はあった。
何故口から下が生えているのか。
武器を出すだけならわざわざ舌がある必要がない。
口だから舌があるのではない。
舌を伸ばせば弾かれ落とされた武器を素早く飲みこむ事が出来る。
しかし、皆それぞれ死角から潜り込んで攻撃してくる。
そして、舌を斬られれば武器を飲みこむ事が出来ない。
皆の注意を何かに引きつけないといけない。
壁際へと徐々に向かい背中を壁に合わせる様に逃げる。
攻撃をしっかりと防ぎ武器の数に気を付けながら
そして、遂に背中を壁へとくっつけた。
啓示は睨みながら
「追い込んだ! もうお前は終わりだ! おとなしくしろ!」
と叫んだ。
ランチェルは慎重そうに
「啓示、こいつどこか追い詰められているように見えない、気を付けろ……何かヤバい気がする」
その言葉を聞いて啓示は頷き、注意を払いながらノリアに近づこうとすると
「勇者様……ダメです、ここは私が……まだ奴は魔剣を残した状態にある、貴方がここで死ねば今まで死んだ者達が報われません……」
ベルマズサは勇者を通さないように手で塞ぎそして、
「私がこのまま拘束します」
と言って近づいていった。
ノリアは細目で警戒していた。
そして、太ももの裏から口を出して舌を密かに出す。
そして、肩から口を出した。
ベルマズサは当然ノリアの肩を警戒して睨んでいた。
他の仲間達もノリアの肩を警戒する。
そして、最終手段をノリアは取った。
「いやあ……助けてえええ」
と泣きじゃくるような声がした。
ノリアの命乞いだと思った。
そんな言葉に耳を貸すつもりは全くなくベルマズサは近付いた。
が、違和感を感じた。
この声を聞き覚えがあったからだ。
ノリアの声ではないという事がすぐに分かった。
当然その違和感と共に一つの事を思い出した。
ソフィリアとメサリ―が居なくなったという事を
そして、その予感は当たってしまった。
肩から愛しい妹の綺麗なブロンドの髪が見えた。
そして、泣きじゃくる自分の妹が出てきた。
間違いなく、あのそばかすも綺麗なブロンズの瞳も母に似た顔も
全て妹であることが証明されてしまった。
そんな彼女が、
そんな愛しい妹が肩から出てきた。
そして、
「助けてええ……お兄ちゃん……怖いよおお」
と真っ青になっていた。
ベルマズサは涙が溢れた。
そんな姿を見て啓示や他の皆も一瞬にして何をされているのか分かった。
そして、怒りが込み上げる。
しかし、
「お前……そんなことをして……この屑野郎がああああ!」
とランチェルは絶叫した。
ノリアは容赦なく魔剣を出して
「ああ、このままだとちょっと触れただけで死んじゃうなあああ……私に何かあっただけでも死んじゃうなあああ」
とニヤリと嗤いながら脅した。
啓示は即死のスキルも使えないと理解してすぐにスキルをひっこめた。
「糞……こいつ……こんな最終手段を……」
と睨みながら動けないでいた。
ノリアは心の中で
(ばかだなあ……姉を見た時点で気付けないとは……知能のない敵とした戦わないかったのか? まあいいや……)
そして、ノリアは人質に注目を寄せている間に舌で武器を回収していった。
(あと少し……あと少しで全部……イギギヒヒヒヒヒヒ!)
と目の前で人質を取られて苦しむ無様さと作戦が上手く言っている喜びが心の中で込み上げた。
ベルマズサは
「か! 彼女を解放しろ! 俺が代わりに!」
「ダメだ、勇者を殺させろ……妹と勇者どっち選ぶ?」
とベルマズサに選択を要求した。
その言葉を聞いて苦しそうにするベルマズサの表情すらも喜びが込み上げた。
ノリアは初めてロメイトの絶望作品の良さが分かった気がした。
ベルマズサは汗を滝の様に流した。
ノリアは困らせる様に
「おいおい、どうしたお兄ちゃん? ああお兄ちゃんは妹より勇者様なんだああ! ねえ? 酷いと思わないかい? 妹ちゃん? 君なんかより勇者様なんだって! 可哀そう!」
と嗤いながら妹に問いかけた。
メサリ―は苦しそうにしながら
「お……お兄……ちゃん……ごめん」
と恐怖に打ち震えながら
「わ……私は……大丈夫だよ……だから……お兄ちゃんは……勇者様を……守って……」
と涙を流しながら必死に訴えた。
ノリアは
「ほらほらああ、妹ちゃんはもう覚悟を決めたよおお? じゃ! 殺そうか!」
と言って魔剣を使って刺そうとした。
啓示は
「待て!」
と言ってノリアを止めた。
ノリアは
「おやおやあああ? お兄ちゃんが馬鹿だから勇者が決めてくれるのおお? 情けないお兄ちゃん! きっと私の姉のナリア姉なら仲間を捨てて私を選んでくれるよ!」
と嗤っていた。
それを聞いてレジリアは
「妹の為に仲間を売るという事か?」
「仲間を裏切った際は裏切られた馬鹿が悪い……それが普通だよ? それに私とナリア姉がいるなら別に関係ないよねえ?」
ノリアは涎を垂らして嗤っていた。
そして、啓示はベルマズサにこそっと
「奴は俺を魔剣で殺したいはずだ……その魔剣を防げば妹は助けられる、気にするな……奴に武器が残っていても俺の能力で無効化すれば妹は助けられる、あの口だけを無効化させて妹を吐き出させる」
そう言って近づいていった。
ノリアは
「おお、来るね来るねエ、嬉しいよ勇者様あああ」
メサリ―は泣きながら
「ダメ、来ちゃダメえ」
そう言って震える。
死を覚悟していた。
そんな彼女に啓示は優しく
「大丈夫だよ」
そう言って近づく。
「ほら返すよ!」
そう言ってノリアは近くまで来た啓示にいきなり妹を投げつけた。
「嫌ああ!」
「ぐ!!」
あまりにも突然の事で皆動けず
啓示はそのまま仰け反った。
そのタイミングを見てノリアは魔剣で刺そうとする。
啓示は
「しま!」
といい終わる前に
グサ!
と鈍い音がした。
ベルマズサは魔剣に刺さっていた。
ノリアは
「チ、惜しい」
と悔しそうにした。
啓示は
「ベルマズサさん!」
と叫ぶ。
しかし、すぐに異様な状況にも気づいた。
投げつけられてからメサリ―は動いていない。
放心状態なのかと思い見ると口から血を流していた。
そして、よく観察するとメサリ―はすでに心臓を抉られていた。
投げるタイミングで殺して邪魔にならないように、動かないように
ノリアはすでにメサリ―を殺していた。