依頼31『ナリアの走馬灯②』
父からそんな話を聞いてから世間の様子は激化していった。
「魔王封印税はもういらない!」
「そもそも1000年前の魔王っていつの話だよ! そもそもそんなの本当にいたのかよ!」
「そうやって俺等から税金を搾り取って何が楽しいんだ! この税金泥棒共め!」
「俺達から金を毟り取るハイエナ貴族共め!」
そして、父の魔王封印管理の役職は世間から白い目で見られるようになった。
「聞いた? あの家族魔王封印管理って人から金を巻き上げる仕事をしてるんだって?」
「聞いた聞いた! 楽なものよねえ、そんな実体のない仕事なんて……」
「少しはこっちの苦労も分かって欲しいわ」
等という非難が横行した。
母は気まずそうにしながらも買い物を私としていると
「いらっしゃい……あんたか……すまないがあんたに売るようなもんはないよ」
「そこを何とか!」
「どうせ俺等の金を毟り取って生活してるだろ? 本当に迷惑な話だよ」
そんな偏見を喰らい、母と私は父の仕事を知らない遠くの街まで赴いて買い物をする羽目になる。
しかし、それでも何とか私達は生活をしていた。
ノリアには私同様におもちゃを買って上げたいがそれもかなわない程に収入が減っていった。
父は仕事を終えて帰ってくるといつもげっそりとした表情になっていた。
そして、
「……ただいま……」
元気のない挨拶をするようになった。
母も気を遣って
「お帰りなさい……ご飯できてますよ?」
と笑顔で出迎えるが。
「いい」
そう言って父はあまり食事を取らず死んだように眠ってしまう。
父はストレスで食欲が減退していった。
そして、嫌な事を忘れる為に酒をの量だけが増えていった。
いつもいつも悲鳴のような声が聞こえる。
父が夜に何度も目が覚めるようだ。
そんな父を見て母はいつも苦しそうにしていた。
私もノリアも不安で押し潰されそうになった。
そして、そんな毎日が過ぎていく中、父は久しぶりに会話をした。
その会話がとてもとても悍ましかった。
「俺の仕事も……なくなるかもしれない……今革命軍が大臣を頼りに武器を流しているそうだ……本来王家の兵士達や騎士達に届くはずの武器が……そして、王家の忠実な部下達には武器は届かないまま古い武器を使わされているそうだ……そして、王家側の人間も大臣の手によって毒殺されたり暗殺されているとも噂が出ている」
そんな話を聞いて私にも分かった。
父はこの国からの脱出、もしくは火の手が飛ぶ前に仕事を止めて夜逃げを考えているのだと。
ノリアは涙ぐみながら
「パパ! 嫌! 離れたくない! 皆と一緒にいたいよおお!!」
と抱き着く。
母は涙を流してノリアを抱きしめて
「大丈夫よ、私達は絶対に離れ離れにならない……最後まで貴方達を守るんだから」
「本当?」
「本当よ!」
と言ってノリアの不安を消し去った。
だが問題は消えていない。
決して逃げることの出来ない運命から。
父は私達を抱きしめて
「どこへ行っても、どこへ逃げても、俺達は絶対に一緒だ……絶対に離れない! そしてきっと俺達は幸せになって見せるんだ! 大丈夫! 皆でこの苦難を乗り越えよう!」
そう言って母と私とノリアを抱き寄せながら三人にキスをした。
私も父の話しを信じた。
ノリアもパアッと笑顔になって
「うん! 絶対に一緒! パパもママもナリア姉様もずっと一緒! 絶対に離れない! 約束だよ!」
とはしゃぐ。
ノリアはあまり状況を理解出来ていないかもしれないがそんな可愛くて可愛い妹の純粋さが私にとってとても美しいものになった。
そして、父は次の日には準備を始めた。
すでに殆どが離れていった仕事場、魔王封印管理所にて
「皆! 聞いてくれ! もうここは放棄する」
「主任……でも! このままだと魔王が復活します! ずっと! ずっとここを守る為に我々は全力を注いでいたではないですか!」
「国民の奴等も大臣もおかしい! 皆おかしい! どうしてここの大切さが分からないんだ! いくら1000年前だからって魔王の恐ろしさを忘れるべきではない!」
そんな当然ももはや意味は為さない。
父は
「だが世間はもう魔王の恐ろしさを風化させてしまった、そしてもはや必要としていない、このままだと我々は殺されて大切な者までも失う! その前に我々は逃げるべきだ! 王にもその話はさせて貰った! どうせこのままだと魔王は復活する! ならば出来る限り助けられる命は助けたいと言って許可をしてくれた! だからこそ我々は大切な家族を守るべきなんだ! 最後だが今が決断の時だ! 皆! 残るか! それとも逃げるか! 私はもう決めている! 逃げる! だ!」
その言葉を聞いて部下達は
「主任、我々が逃げれるように自分も逃げるというのですか……」
「確かに、このままだとどうせ殺されて魔王は復活する、そうなれば我々の命は無駄に壊される、それどころか家族も奪われる、そんなのは嫌だ! もう勝手な国民何て知るか! 俺達は俺達の大切な家族を守る!」
「王様……すみません、忠誠を誓っておきながら……私も家族の命が大切です……だから……だからあああああ」
涙を流しながら部下達は決意していく。
父は
「よし! ならば最後の仕事だ! 完全に調整して出来る限り封印が持つように状態を保つんだ! そうすれば魔王の復活も遅らせれる! もしかしたら魔王の復活をする前に暴徒を鎮圧がでいてまたこの仕事が出来るかもしれない!」
「そうだ! 俺達の最後の仕事は状態の維持だ! 俺達がこの場で殺されれば封印する者もいなくなる! いずれ復活するかもしれないが最後まで頑張れはきっと! いつかきっと国民も!」
「そうだ! きっと!」
「きっと!」
「「「「「きっと!!」」」」」
皆々がそんな希望を信じて封印の状態を確認、そして調整をしてから逃げる事にした。
そして、荷物をまとめた父が研究所から出てきた。
私と母とノリアの準備は整っている。
「さあ、行こうか」
そう言って私達は皆、遠くの街へと逃げることになった。