表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/123

依頼19『ロメイトの走馬灯①』

ロメイトの目の前に拳が迫ってくる。

ロメイトは感激しながら


(ああ……良い……こんなにも素晴らしい表情をしてくれるなんて……煽って良かった……馬鹿にして良かった……コケにして良かった……冒涜して良かった……私にとって最良の選択だった……)


そして、ランチェルの拳はロメイトの顔寸前で止まった。


--------------------------------------------------------


私は鍛冶屋の娘として生まれた。

たった一人の娘だった。

二人には私以外の子供は恵まれなかった。

男の子が生みたくて、そして跡継ぎが欲しかったのだ。

他の鍛冶師も男が生まれない内はもうダメだとも思われていた。

父親は私を結婚させて婿に鍛冶を継がせようと計画していた。

私は別にそれでも良かったが……父親に自分の人生を左右されるのが気に食わなかった。

ただただ自分の人生を偉そうに決められるのが気に食わなかった。

そんな笑みを浮かべる父も良い嫁を目指させる為に家事を仕込む母も気に食わなかった。

偉そうな笑みで私の為と言っている姿が思いっきりムカついた。

大した才能も強さも持ち合わせてもない低能共に好き勝手されるのがムカついた。


父の仕事を見た時私は思った。


(何であんな程度の事、あんなにも程度の低い武器を作るのか……どうして父の作った武器で、客は自分に合わない武器を買い馬鹿みたいに調子付くのか……呆れる呆れる呆れる)


私はそんな目の前に低能共が私を見下しているという状況が気に食わなかった。

私の方が上手くやれる気がした。

だが、これで私が程度の低い武器を作ればただの馬鹿だ。

そんな私はきっと今馬鹿にしている連中より程度が低いゴミになる。

だから作ってみた。

すると自分では満足いく剣が簡単に出来た。

父親の鍛冶のやり方を見ただけで大体分かり、そこから自分で父親の作り方を訂正して、修正して出来た剣だ。

父親はそれを見つけて私を場違いにも叱責したが、私が作った剣を見て父親は何かを確信した。

さすがに物を見ればこの父親にも分かるようだ。

目利きだけは才能あったのだろう。

しかし、それだけだ。


程なくして父親が剣を作ることは無くなった。

代わりに私が作るようになった。

寧ろ私を利用するようになった。

金儲けの道具として利用し始めた。

私にはその姿が滑稽でしかなかった。

そこからドンドンと私に店を侵食されているとも知らずに私を利用していると思い込んでいる姿はとてもとても良い光景だ。

私が父親の人生を、母親の人生を左右している。

主導権は私が奪ったのだ。

そして、客にはその者がきっちり使いやすい武器を選ぶことによってより成果を上げれるようになったのだ。

私の左右で奴等は実力を変えられてしまうのだ。

それを自分の実力だと勘違いしている様は私の親同様無様で滑稽だった。


だが……私はそんな程度では満足出来なかった。

私の欲はこれぐらいでは満たされなかった。

私を女という理由で鍛冶師にはなれないと見下してきた低能で才能のない同業者の店を奪って人生を奪いたかった。

私は奴等の誇りをも奪いたかった。

奴等の人生で積み上げてきた財産すら奪いたかった。

更に私は王国が魔獣退治の為、武器を欲しがっていると知った。

それで成果を出せば奴等より客を取り、そして仕事を奪い去ることが出来る。

そう考えて私がその役目を買いたいと父親に頼むのは癪だったので自分から王国に出向いた。

すると当然警備隊に捕まったが


「貴方は……確か有名な鍛冶師のロメイトでしたか?」


と一人の少女が現れた。

そして、少女は私の話を聞いてきた。

そして、私は少女に王国の武器を任せて貰えるように交渉した。

すると少女は


「分かりました、ではやってみなさい……そして私に見せなさい」


とだけ言って来た。

その力強い言葉を聞いて私は初めて侮れないという言葉が頭に浮かんだ。

だがコケ脅しであれば私はその言葉を物凄く嫌っている。

だから私は


「分かりました、では出来次第提出させて貰います」


とだけ言って立ち去った。

そして、私は試作の剣を数日で作り上げて城へと持って行った。

そして、その少女は騎士に囲まれながら私の剣を見た。

すると少女は


「……良い剣ね……ええとても良い剣よ」


その言葉に私は少し悲しくなった。

結局この女も見る目がないと


「でもただ良い剣なだけ、魔獣退治で他の兵士達が扱える武器じゃないでしょ? これ?」


と睨むように言って来た。

私はギョッといた。

少女は


「私を試さないで……こんなの見れば分かるでしょ? こんなに剣じゃ他の兵士達には難しいわ……貴方が本来見せようと思っていた剣を見せなさい」


そう言われた私はもう一つの剣を見せると


「うん、これならいいわ……ありがとう、では貴方に任せます、王には私から言っておきますね」


とその一言を言って立ち去った。

私はただただそれだけの会話だけで分かった。

この少女はあの低能共とは違い、上に立つ者の風貌があると思った。

何故かあの会話のみで分かった。

あの少女の下であるならば文句なく従うだろう。


そんな感情が湧く不思議な少女であった。

私が唯一認めた人間であった。


その後、少女でなく大臣と呼ばれるオッサンが現れて剣を作るように言って来た。

その大臣はあの少女が頼んだ剣に不満があるのかそんな雰囲気を出しながらも納品の剣を受け取る。

その後、私の店は王国が取り寄せる程の一級品という噂が流れて他の鍛冶師の客すら奪った。

その快感が堪らなく嬉しかった。

他の低能共の人生を私の玩具として奪う事が出来た快感は忘れられない。

奴等の失業する絶望の様はとてもとても快感だった。


その後、少女とも会う事もなく剣を作り続ける日々が続いた。

また、低能共が絶望する様を見たいという欲求はあったが、我慢しながら生きていた。

魔王が復活したという噂を聞いて絶望する馬鹿共の様を見て少しは楽しかったがそれでも欲求が溜まっていた。


(ああ! 欲しいな! 新鮮な絶望が! 叶わないかなあ!!)


そんな願いを心に留めながら日々を過ごしていると


「ロメイト! ロメイト!」


穀潰しの父親が何やら焦って私を起こした。

穀潰し母親もどこか恐怖していた。

訳が分からず突然父親は私を床下に押し込めて


「いいかい! 絶対に出るんじゃないぞ! お前さえ生きていれば我が家系の鍛冶は守られる! お前は天才だ! だから絶対に隠れているんだぞ!」

「ロメイトちゃん! 貴方なら大丈夫! どうか死なないでね!」


と言って床を閉じる。

訳が分からず取り敢えずはそこに居座っていると


「ああああああああ!! いやああああああああああああああああ!!」

「うぐへへへへへ!」


ギシギシ!


と母親の悲鳴と何者かの嗤い声がする。

そして、床の軋む音。

それを知りたくて私はこっそりと開けて覗いてみると


母親はオークに乱暴されていた。


「いやああああああああああああああああああ!! 止めてえええええええええええええ!! ああああああああああ!!!」


と悲鳴を上げて絶望に染まる母親はオークに蹂躙されている。

そんな光景を見て私が思ったのは


「綺麗」


だった。

悲鳴を上げて、もがき苦しみ、強者であるオークに弱者である母親が無駄な抵抗をしている様、涙を流して助けを求める様、慈悲を求める様、そんな絶望で染め上げられた表情。

私にとってとてもとてもとても素晴らしい光景であった。

素晴らしい表情であった。

今まで見たどんな絶望の表情より綺麗であった。

私は今までとてもチンケな物を奪って相手の絶望を引き出していたが、彼らは私より絶望を知っているのか、それともただ欲求を満たしているだけなのか、私が求めていた者を引き出していた。

そのまま私は隠れて鑑賞に浸っていた。

そして、事が終わりオークも出て行った後、絶望のショックで死んだ母親を眺めて


「お母さん……今とても綺麗だね」


と笑顔で母親に伝えた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ