依頼16『予想外』
ナリアとノリアは焦っていた。
「何だよあいつ!! 普通人の敷地内に入るか!!」
「しかもあの動きって! 確か情報では寿命を削って使う盗賊の技だっけ! 普通こんなしょうもない事の為に使うの!! ドン引きなんだけど!!」
と話して観察していた。
だが助けることが出来ない。
イナミは衛兵に捕まった。
しかし、暴れていた為衛兵もかなり苦戦していた。
情報ではラベルは自分の寿命を使う事で、目に入る場所へ瞬時に移動することが出来る。
しかし、当然代償が大きすぎる為、ラベル自身もその技を使う事が無かった。
しかし、ラベルは一人になる時間があまりにも無さ過ぎて、あまりにもフラストレーションが溜まり過ぎていた。
そして、何かで発散したいという欲求に溺れてしまったのだ。
本来ラベルは可愛い女を見つけると例え目の前にお宝があってもその女の方へと向かってしまう程の女好きであった。
勇者と出会った時は殆ど食事を取っていなかったこともあり、そのような行動も取らなかったが、仲間になった後は、たまに舞、レジリア、レイミー、リストア等に声を掛けていた。
しかし、相手にされなかったが故に不満が溜まってしまった。
その事が災いしてしまい、例え寿命が減ると分かっていても目の前に映ったイナミの場所へと瞬間的に移動してしまったのだ。
ナリアもノリアも遠くにいるイナミがラベルの見える位置にいた事に驚いていた。
確かに、勇者を暗殺する為に王国の近くのハイネウスの店の敷地に待機していたとはいえ普通ならば見える様な距離ではなかった。
しかし、長年盗賊をしていたラベルにとってかなり遠くの輝かしいお宝や美女がいる事は当然の様に見えていた。
アメナガスは慌てながら
『おい!! 何があった!! どうなった! イナミがどうした!』
とナリアとノリアに呼び掛けていた。
ナリアはその通信に気付き
「すまん!! まさかあいつが寿命を削る瞬間移動を使ってイナミの近くに行くって思わなくって!!」
と慌てながら状況を説明した。
『っ!!』
アメナガスはその言葉に息が詰まるも
『はあ!! 何だそれ! まさかイナミが暗殺者ってバレたのか!』
「いや! バレてはいない! だがあいつ目の前で煙草吸いやがった!!」
『!! 嘘だろ!! そんな!! アイツにそんなことしたら!! 豹変して!! いやそいつらにそんなことが分かるわけない……イナミの様子は!』
アメナガスの不安は通信からも明らかであった。
そんな不安を感じ取りながらもナリアは呼吸を整えて
「ふうう、とにかくラベルの顔面を思いっきり殴った……死んではいないから正直良かったのか悪いのか微妙なところだ……そして、駆け付けた数人の衛兵が腕をへし折られている」
「うがああああああああああああああ!! 放ぜええええええええええええええええええ!! ゆるざないいいいいいいい!! 臭いんだよおおおお!! てめえよおおおおおお!!」
先程の美人な表情は消え失せており、血管を浮き出しながらラベルを睨み着けてながら殺気を撒き散らしていた。
「あ、捕まった……」
「ああ……どうしよう……さすがにあの人数に突っ込むには……」
イナミは、衛兵20人という数の力で取り囲まれ、全員の力で押さえ込まれていた。
ギリギリ止めることが出来た状態となっていた。
アメナガスは二人の話を聞いて状況を理解した。
『まあさすがにまず捕まるだろうな……だが別に殺したわけではないから処刑はないだろう……仕方ない……ロメイトだとボロを出しそうだし……そうだな……ハイネウスを迎えに行かせるよ……まああいつも少し問題だがロメイトよりマシだ……取り敢えずあいつの資金で保釈手続きをして貰う……取り敢えずせっかくのチャンスだが暗殺は一旦中止だ……いいな』
と指示を出した。
すると
『私がするううううううううううううううううう!!』
とロメイトが叫んでいる声がした。
『うるさい!! 出来るかよ!! てか誰殺すんだよ!!』
『そのラベル!!』
『出来るかよ!!』
という会話が聞こえてくるが
「取り敢えず私ら戻ろうか?」
『お願い』
というアメナガスの指示に二人は従った。
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イナミは取調室で
「私のせいじゃなアあああいいいいい!! アイツが悪いのおおおおおおおおおお!!」
といつもの物静かな冷静さを欠いて癇癪を起していた。
バンバンバン!!
と机を叩き、
ゴンゴンゴン!!
と椅子を蹴り、机を蹴りつける。
衛兵の一人はイライラしながら
「黙れ!!! 貴様! 自分が何をしたのか分かっているのか! 勇者様の御供であるラベル様へ暴行を働いたんだぞ!!」
と怒鳴り散らす。
もう一人衛兵もイナミに向かって
「テメエ!! いつまでそうやって言い訳をする!! 自分のした罪を償おうと思わんのか!!」
イナミはさらに癇癪を起して
「違う違う違ううううう!! 私悪く無いいいいいいい!! 全部あの煙野郎が悪いいいいいい!! あそこは私が住まわして貰っている家えええええ! 敷地って言ってたあああああ! 勝手に入って来たのあいつううううう!!」
バンバンバンバンバン!!
とひたすらに机を叩いて涙を流して悔しそうに地面を足で叩きつける。
衛兵はイナミを見下す様に
「フン、キチガイめ……貴様の様な屑がいるから世界は平和にならんのだ……ぺッ!!」
と言いながら、イナミに向かって痰を吐く。
イナミの顔面に痰が付き更に
「ああああああ!! 違う違う違うううう!! どうしてええええ!! ああああああああ!!」
と悲鳴を上げながら泣く。
すると
「イナミちゃんが連れて行かれたと聞いて来たんですが?」
ハイネウスはイナミを取り戻しにお金を持って現れた。
ハイネウスは明らかにイライラとした表情で睨んでいた。
「ハイネウス……ごめんん……」
と涙を流しながら俯く。
衛兵は態度が気に入らないのかハイネウスに食って掛かる様に
「貴方ね!! この屑の教育! どうしているんですか! 社長だか何だか知らないが甘やかすからこんな事になるんじゃないんですか! 教育が出来ないなら社長何て辞めてしまえばいいんだ! 仕事だけが出来たって教育が出来ないならお前の仕事なんてただのお遊び何だよ! 分かってん……」
パシイイイイン!!!
と乾いた音が取調室に鳴り響く。
衛兵の頬は手の形をした赤くなっていた。
衛兵は一瞬何が起こったのか分からず呆けていると
「お前! 何をしている!!」
ともう一人の衛兵がハイネウスに怒鳴る。
するとハイネウスはイナミを抱きかかえて
「うちの子は何も悪くありません!! 悪いのは私の敷地に不法侵入した屑が汚い息を吐いたのが悪いのでは! さ、帰りましょうイナミちゃん」
そのままイナミを連れて取調室を出ようとした。
衛兵は慌てて
「ちょっと! どこに行くつもりですか!」
と二人を止めた。
ハイネウスは睨みながら
「何ですか? まだ何か?」
「当たり前です! 何を考えてるんだ!」
衛兵はハイネウスの態度に明らかに苛立ちを覚える。
ハイネウスは衛兵に
「ほら、これで良いんでしょ!」
と言って金を投げつけた。
「痛!!」
と言って金貨を顔面に受けて怯んだ。
その間にハイネウスはイナミの頭を撫でながら
「怖かったねえ、イナミちゃん、大丈夫だった?」
「酷いよおお……私何も悪くないのにいい……怒られたああ……」
と泣きながらハイネウスの胸に顔を蹲る。
「待ちなさい! 金の問題ではないんだ! ちゃんと勇者様達に謝罪をするんだ!」
と大声で二人を止める。
ハイネウスは苛立ちながら
「しつこいですね! 私達は何も悪くないじゃないですか!! イナミちゃんをこれ以上傷つけないで!」
「貴方ねえ!!」
と二人の喧嘩はヒートアップしていった。
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啓示達はラベルが暴行を受けた話を聞いた。
ランチェルは頭を抱えて
「全く、いきなり問題を……」
とぼやいていた。
舞は申し訳なさそうに
「すまない、あの時ちゃんと止めておけば良かった」
と責任を感じていた。
舞もラベルの気持ちが何となく分ってしまい、一人になりたいラベルを強く止めることが出来なかった。
だがそれが間違いであったと本気で反省していた。
ランチェルは慌てながら
「舞! 君が悪くない! ラベルが悪いんだから!」
と励ますとレジリアは
「だがラベルを誰が迎えに行く? さすがに皆で行くと詰所にいることが露見して勇者様の評判が悪くならないか? こんな時に何だが住人を不安にさせる事はあまりしない方が良いんじゃ? 勇者の関係者が問題を起こしたと思われて……」
本当にそのことが今最大の悩みであった。
舞もそこが一番の悩みであった。
ダべダルドも
「となると舞と啓示は迎えに行くのはまずいだろうな……そう考えると誰が迎えに行く?」
と相談するとランチェルは
「仕方ない、俺が行こう」
と名乗り出た。
すると啓示は
「俺も行くよ、時間が止まった時に対処出来る人間が近くにいた方が良いだろう」
と言ってランチェルと一緒に行く事を進言する。
ランチェルは
「だが、勇者のお前がラベルを迎えに行くと」
「大丈夫だ、ローブを着て一緒に行けばバレやしないさ、さすがに全員で迎えに行くのはまずいが俺とランチェルの二人だけならそれほど目立たないだろう」
と言い終わる前に啓示は提案をした。
それを聞いて舞は
「そうだな、ついて行った方が良い、もしこの時を狙われたらラベルとランチェルの命が危ない、時間が止まってしまっては例え強靭な肉体であっても隙だらけで殺されるだろう、レイミーの二の舞はダメだ、だからお願いだ」
それを聞いてランチェルは仕方なさそうに
「そうだな……お願いするよ啓示」
「ああ、分かった……舞はここで皆と一緒に居てくれ」
「分かった」
こうして啓示とランチェルはラベルを迎えに詰所へ向かった。
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ラベルは詰所の医務室で
「痛ってええええ!! 糞! 何だよ! 煙草吸って息を吹きかけたぐらいで大袈裟な! 殴る事ねえよ! 全く!」
と反省の色が無かった。
そんな様子をナリアとノリアは詰所から近い木から覗いていた。
「あいつ本当にムカつくなあ……あそこまで屑で最悪なのに勇者の仲間って本当にキモイ!」
とノリアは軽蔑の目でラベルを見ていた。
ナリアはノリアの頭を撫でながら
「そうだな……煙草が嫌いな人間の気持ちっていうのが分からないんだろうな……煙草全体を否定するわけではないがそういうルールを守れない奴なんだ、だから両者共に迷惑を掛けるんだろうな、盗賊として人の敷地内に無断で入るのが普通であったとしても最悪だ」
その時であった。
『ナリア、ノリア、そこで様子を見ていて、これからロメイトがその男を暗殺するから』
との連絡であった。
ナリアもノリアもあまりのも予想外の連絡に
「いやいやいや! どうやって! 時間と止めてラベルが殺されれば今向かっている勇者にバレるよ!」
「そうだよそうだよ! 確かに城からここの詰所に行くにはもう少し時間が掛かるけどロメイトの殺害方法を考えると明らかに時間が足りないよ! イナミだって今は捕まってしまって動かない方が良いだろうし!!」
二人は猛反対してロメイトの暗殺を止めようとした。
するとアメナガスは
『私もそのつもりだった……しかし、今なんだよ……もし今ラベルが一人である状態を逃せば奴は問題を起こしたことによって一人になるのはもうダメだとかになって全員が揃った状態になる……その前に出来るだけ人数を減らすべきなんだ、お前等だって次暗殺するときに出来るだけ人数が少ない方が良いだろ?』
さすがにその意見にナリアは
「確かに、問題を起こしたとなるとそうなるか……」
考えているとノリアは
「でもそれってもしこれで暗殺されなければ一人の時間を作っても問題ないってならないの?」
だがアメナガスは
『いや、それは北島舞が許さないだろう……寧ろ暗殺を起こさなかった事を怪しみそれは奴等の罠だと気づきそれこそ手を打って行動をする……一人になったところを暗殺と考えている我々の中の一人死ぬ程度なら問題はまだない……』
「それってどういう意味よ!!」
とノリアはムッとしながらアメナガスに質問する。
『全員の正体がバレてしまうかもしれないってことだ、そうすれば一気に根絶やしだ……それだけは絶対に避けないといけない……』
「でもそれって暗殺しても同じじゃ?」
『ならばこそ一人でも多く減らすんだよ……どうせロメイトの時間停止は割れている、それに……』
「……」
言葉を詰まらすアメナガスにナリアも少し俯く。
ノリアは不審に思い
「どうしたの? ナリア姉? 何かあったの?」
「私の能力も割れている可能性もあるってことだ……」
その言葉にノリアは唖然として黙った。
アメナガスは溜息を吐きながらも
『まあそういう事だよ……だからさ、それにロメイトにも言い聞かせてるよ、絶対に殺すだけで趣味を優先するなってな』
ノリアは疑いながら
「本当に大丈夫? アイツが本当に趣味優先で殺さないの?」
『だが時間を止めて殺せるのは奴ぐらいだ……それとも時間停止でお前が暗殺してくるか?』
「良いけど」
「おい、安請け合いするな! お前が死んで私だけ残ったらどうするつもりだ! もし私もついて行ったとして見張りはどうする! ロメイトに頼むのか! 絶対に無理だろ! ロメイトがバレかけてるのに私達事バレてどうする!」
「アメナガスは?」
「アメナガスがもしバレて情報係と連絡が取れないとどうするつもりだよ」
「ああ……そうか……」
ノリアもさすがに残っているメンツでは自分達以上の適任はいない事を理解した。
そして
『ロメイトも殺る気だし任せよう、今の趣味優先での暗殺だけじゃダメだからな……』
とロメイトの意識も変える事を意識していた。
すると
『じゃあ私で良いね! もう近くに来てるから始めるよおおおお!!』
元気いっぱいのロメイトの声が聞こえてきた。