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JKなのに乙女ゲーの皇子様に転生しました  作者: 涼瑚
第一章、転生先の環境改善
8/20

8、案ずるよりとは言うけれど、案じない訳にはいかない話

ブックマーク&評価、ありがとうございます!

 離宮は、考えていた以上に閉塞的で、暗い場所だった。

「…こんなところに閉じ込められていたら、何もしなくても気が狂うと思うけど。」

 思わず呟いてしまう。


 結局、母上に直接会うのは避けるべきだというシルビアの意見を聞き入れ、最初は物陰から様子を伺う程度にすることにした。


「殿下、こちらに。」

 声を抑えたシルビアに導かれ、戸棚の陰に隠れる。

「母上は?」

 シルビアにならって小声で尋ねると、あちらです、と教えてくれた。彼女の指先が示す方向を見ると、ソファーに座り、ハンカチっぽい布に刺繍をしている女性がいた。

 光の加減で、私のところからははっきりとは顔の判別がつかないが、わずかに目視できるだけでも相当な美人であることがわかる。美しい銀髪が手元を照らす明かりにきらきらと輝き、繊細な指先が動く様子もとても美しい。まさに、深窓の令嬢と言うべき姿だ。

 うっとりと見惚れていると、不意に母上が顔を上げ、蕾が綻ぶような笑顔を見せた。

「あら、お母様。いらっしゃっていたのなら、話しかけて下さればよろしいのに。」

「…皇后陛下。」

「まあ、お気が早くてよ。殿下とわたくしは、まだ婚約を終えたばかりではありませんか。」

「失礼致しました、エリザベート様。何を作っておいでなのですか?」

 一瞬だけ落胆した様な雰囲気を見せたシルビアさんはしかし、慣れた風情で再び母上に話しかける。さすが二年近く、()()母上と接してきただけある。

「殿下へのプレゼントですの。喜んでいただけるかしら?」

 殿下って父上の事かな?たぶんそうだよね。止めなよ母上、あんな奴にあげたら折角のハンカチがかわいそうだよ。

「きっと、きっと、お喜びになると思いますわ。」

 シルビアはそう返していたが、母上の目を見ていないのは明白だった。そらそうだ。あんな事をする屑が素直に喜ぶ筈もなかろう。

 よし、今日はここで帰って改めて作戦を練り直す。一番良いのは父上を説得して母上にちゃんと謝ってもらう事だと思うけど、流石に難しいだろうなぁ…。


「あれ?何で殿下がこんなところにいらっしゃるのですか?」

「うわっ」

 不意に背後からかけられた声に驚いてしまい、隠れ場所から母上の目の前へと飛び出してしまう形になった。

「メリーナ!なんて事を!」

 シルビアさんの言葉で彼女ーメリーナと言うらしいーは自らの失態に気付いたようだったが、残念ながら時既に遅し。目の前に転がってきた私の存在を、母上はバッチリ視認したようだ。


 ああ、終わった。やっぱり慣れないことはするべきじゃないな。結局のところ、私は間違いを恐れて何も行動しないよりは、と思ってアクションを起こした結果、大間違いをしでかした、というわけだ。母上が前回(にねんまえ)から成長した私の事を再びアレクシスとして認識するのかはわからないが、少なくともその可能性が高いことは確かである。

 そして、その可能性が現実となった場合、母上が前回と同じ反応を見せる事と、彼女の状態がさらに悪化する事の可能性はさらに高い。

 私はぎゅっと唇をかみしめ、母上のリアクションを待った。


「あら、殿下。いらしていたのですか?ああ、それでお母様が先程までいらっしゃらなかったのね。」

「へ?」

「どうなさったのです?カールハインツ殿下。遊びに来て下さったのでしょう?」

 カールハインツ?…誰だ?どっかで聞いた名前の気がする。どこで?誰に?いつ、聞いた?

 ……あっ!……父上の、名前だ。

 ということは、母上は私をアレクシスではなく父上だと思ってるってことか。でもいくら親子で顔が似ているとはいえ、二歳児を十二歳と間違えるか?そういえばさっきシルビアさんが、母上は「無理やり」周りの状況を十年前に置き換えてるって言ってたな。なるほど。とりあえず、話を合わせてみよう。

「すみません、エリザベート様。急に声をかけられて、混乱してしまったようです。」

 そう言いながら君が原因だろう、とメリーナに視線を送ると、

「申し訳ございません、でも殿下もエリザベート様にお声をかけるタイミングを見計らっていらっしゃったでしょう?」

 と、調子を合わせてくれた。

「普通に声をかけて下さればよろしいのに。お母様といい、殿下といい、最近は隠密の真似事か何かが流行りなのですか?」

 くすくすと笑う母上は、本当に十二歳の少女のようだった。

 でも母上に殿下って言われるとなんか違和感がある。でも屑親父の名前(カールハインツ)で呼ばれるのは御免だ。…そうだ、愛称とかならどうだろう?

「エリザベート様、私の事は『殿下』ではなく『カルツ』と愛称で呼んでいただけませんか?その方が、特別感があって良いと思うんですけど。」

「…っ!よろしいのですか?まだ、婚約したばかりですのに。」

「はい、そうしていただけると嬉しいです。」

「ではカル、ツ、様。その代わりと言ってはなんですが、わたくしの事を『リシィ』と呼んで下さりませんか?」

 少しつっかえながらも愛称呼びしてくれる母上マジ可愛い。天使かよ。

「わかりました。リシィ、これからよろしくお願いしますね。」

 あ~、母上顔真っ赤じゃん。めっちゃかわいいんですけど。やーいやーい父上のバカ野郎こんな最上級物件逃してやんの。大損の大赤字じゃん。ざまあみろ~!


 その後、母上の好みの話をふって、好きな色やらお菓子やらを聞き出してから帰ってきた。これで「カルツ」からのプレゼントに迷わなくて済む。また、翌日診察に来た医師の話によると、母上の状態はこれまでになく好調らしい。引き続き婚約者ごっこは続行する予定である。

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