6、両親がそれぞれ別のベクトルにヤバかった件について
更新遅れてすみません!期末考査が大変で…。
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母上、凄いな。そして強い。それと父上が馬鹿と阿呆の混合物だ。しかしシルビアが話してくれた「事件」の内容は驚くに値する物だとは思ったが、死人が出たわけでもあるまいしそんなに重大な感じはしない。
「そして、一ヶ月後、試験が行われ、審査は皇太后陛下御自ら行われました。結果は一目瞭然で、ミカエラ様が身に付けた内容は完全な付け焼き刃。マナーもぎこちなく、言葉遣いも不完全。外国語に至っては自己紹介も儘ならない。努力の跡は見られるものの、ただそれだけ。未来の皇后としては足りないものが多すぎる、とのご判断でした。」
まあそうだろうな。宮中での行事やら諸外国との付き合いやらは大変だ(たぶんだけど。記憶が戻ったばっかりでその辺の調べものはまだだし。)。だからこそ母上は六歳の時から学んでたんだろうし。でもここまでの流れでいけば、その後父上がミカエラさんを諦めて母上との仲を取り戻してハッピーエンド、っていくんじゃないの?
「皇帝陛下も渋々とはいえ、その結果を受け入れられました。そして三年後、先帝陛下が亡くなり、現皇帝陛下が即位なさります。結婚式は即位式と同時に行われ、晴れてお二人は夫婦となられました」
すっごいトントン拍子で進んでんじゃん。
「そして、即位後すぐ、皇后陛下は皇太子殿下を妊娠なさいました」
え、私のこと?なんか自分の話されるのってくすぐったいな。
「しかし」
ここでどんでん返し?誰だよ余計なことした奴。
「皇帝陛下とミカエラ様の仲は終わってなどいなかったのです。」
父上えええぇぇぇぇぇ!諦めたんじゃなかったの?いや、奥さんのこと大事にしようよ!美人で頭いいなんて良物件そんなに転がってないと思うけど?母上可哀想過ぎでしょう!
「皇后陛下が殿下を身籠るや、妊娠中の安静を理由に皇后陛下を離宮に移された皇帝陛下は勅命として強制的に当時のガーネット公爵家当主、ハルトヴィヒ・フォン・ガーネット公爵にミカエラ様を養子に入れさせました。」
父上えええぇぇぇぇぇ!いやもう敬称使う必要性感じないわ。屑親父いいいぃぃぃぃぃ!どんな所に権力使ってんだよ、使うとこ間違えてるよ!あんた阿呆か!あ、阿呆だったあぁぁぁ!
「そして晴れて公爵令嬢となったミカエラ様は、ガーネット公爵令嬢として皇妃の座に着きました。当時皇后陛下は、ただ『ガーネット家の令嬢が皇妃となった』としか聞かされず、後宮に入ってすぐに妊娠なさったミカエラ様のお見舞いにいらっしゃった際に初めて、お知りになりました。」
前言撤回、十二分に驚くべき内容だ。て言うかそのミカエラって人約束破ってんじゃね?それについては誰も突っ込まなかったの?
「ミカエラ様って卒業パーティーの時に自分が負けたら皇妃になるのも諦めるっておっしゃってますよね。なのにどうして。」
「皇帝陛下が説得なさったそうです。皇妃になれないのは『ミカエラ・フォン・キャッツアイ』であり、『ミカエラ・フォン・ガーネット』としてなるのであれば問題ない、と。」
とんだ詭弁だな、おい。
「皇后陛下は大変驚かれましたが、ご自分が狼狽えてはお腹にいらっしゃる殿下にも障りがある、と気丈に耐えていらっしゃいました。」
私って愛されてたんだな…。
「しかし、殿下をお産みあそばせてから、皇后陛下の体調は優れない日が続き、とても殿下のお世話をなさる事など不可能でした。」
まあお産は命懸けって言うしね。
「医師の命で殿下の事はは乳母が御育て申し上げることになり、お二人は別々に生活されておりました。そんなときに産後三ヶ月が経って初めて、皇帝陛下がお見舞いにいらっしゃったのです。その日は特に、皇后陛下の御体調が優れない日でした。」
またかよ屑親父。今度は何をやらかすわけ?
「寝台より起き上がることもできない皇后陛下に対し、皇帝陛下は心底憎らしげな顔で、クラウスは死んだ、ミカエラの産んだ王子を新たな皇太子とする、とおっしゃったのです。」
…は?
「私も後から知ったことなのですが、その日は第二王子のアレクシス殿下が誕生なさった日だったそうです。」
なにそれ意味わかんない何でそんなこと言うわけお産の後で体調崩してる妻になんてこと言ってんのあの屑親父ほんと意味不明かつ理解困難すぎるんだけど?
「…父上は、何故そんな事を。」
素直に呟いた疑問は、驚きのせいか、話に夢中で水分を摂り忘れていたからか、ひどく掠れていた。
「卒業パーティーの際に、皇后陛下が皇帝陛下の事を論破なさったことに苛立っていらっしゃったようです。」
「つまり、体調を崩して心が不安定な時期ならばダメージを与えられると思った、と?」
本っ当あり得ない屑具合。
「恐れながら、その通りかと。」
自分の破茶滅茶な論理を真っ向から否定した事への意趣返しに相手が弱っている所に、一番酷い方法で傷付ける。
「本当、最っ低…。」
にしても、ひょんなことからとんでもない情報手に入れちゃったよマジで。
…あれ?何でこんな話になったんだっけ?あ、庭園内の立ち入り禁止地帯の事か。そういえばさっき引っかかる単語があったような。
そう、「離宮」。同じ宮殿の敷地内に有りながら、私達が寝起きしている建物とは別にされている物。
「もしかして、あの生け垣の向こう側は。」
「皇后陛下がいらっしゃる、離宮へと続いております。」
ならば、余計に疑問が増える。
「それならば、余計に何故私があの先に行ってはならないのか分かりません。息子が母親に会いに行くことは何も不自然ではないと思いますが。」
「…一度、未だ殿下が乳飲み子であらせられた時に、お連れ申し上げた事がございました。」
うん、これっぽっちも記憶がない。相当小さかったんだろうな。
「しかし、皇后陛下は皇帝陛下の『クラウスは死んだ』という暗示に捕らわれてしまっており、殿下の事をアレクシス殿下と勘違いなさり、逆上なさいました。」
あんの屑親父いいいぃぃぃぃぃ!
「この状態でお二人の生活が始まるのは殿下にとっても皇后陛下にとってもよいことではござらない、と我々は判断し、それ故に先程お止め申し上げたのです。」
「話しにくいことをここまで詳細に教えて下さり、ありがとうございました。それで今の母上の体調は?」
「お身体はもう、十分に回復していらっしゃいます。しかし、お心の方が健康とは言い難い状態で。」
痛ましげに表情を曇らせるシルビアは、それほど母上の事を大切に思っているのだろう。
「医師が言うには、ご自分の心の中に閉じ籠り、『今までで最も楽しかった時』に戻ってしまっていらっしゃるのだろう、と。」
幼児退行おこしてるってことかな?
「皇后陛下は、ご自分が12才の少女だとお思いになり、そのように振る舞われるのです。」
「具体的にはどのような?」
「恐れ多くも私の事を母とお呼びになり、初歩的なマナーについて何度もお聞きになったり、周囲の侍女に対しては当時のご友人やお屋敷の使用人の名でお呼びになったり。とにかく無理矢理周りの環境を十一年前のそれに置き換えていらっしゃる状況です。」
ふーん。こっちにはカウンセリング的な発想とかは無いのかな。
「しかし皇后が実質不在では公務に差し支えが出るのでは?」
「はい。しかし皇帝陛下が妃は要らぬ、とおっしゃっていて、現在は両陛下がご出席なさるべき行事でも皇帝陛下のみでのご参加となっております。」
あれ?でもミカエラさんは?さっきの昔話からこっち、一度も出てきてないけど、皇妃になってたよね?それなら代理で公務とかできるんじゃない?流石に七年あればある程度の礼儀作法は身に付くだろうし。こっちも何か事情があるんだろうか?